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インターハイ優勝校としてオファーがかかった熊本レース。それに出場する為、オレ達総北は飛行機を使ってはるばる熊本まで遠征に来た。
それからゆっくり観光する間もなく宿に向かって、着いてすぐに部屋でゆっくり…という訳にもいかず、すぐに明日からのレースのミーティング。それが終わったら息つく間もなく明日の補給の準備。
こうしてサポートとして動いていると、一月前のインターハイの事を思い出すな…あの激動の3日間からもう1か月経ったのか。まだ昨日の事のように思い出せるのに。

このレース、またサポートでいいと言えば嘘になる。当然走りたかった。けどインターハイ優勝校としてオファーが掛かったんだ。インターハイを走った先輩と一年が走るのが当然だ。今回もサポートとしてしっかりチームを支えよう。
巻島さんの退部、それが原因の小野田の不調…心配な部分はあるけど、チームを信じてサポートして応援するしか無い。

明日の用意も終わって、夕飯も食い終わって部屋に戻ってきて後は風呂入って寝るだけ。けど、せっかくちょっといい旅館に来たし、このまま寝ちまうのは少しもったいない。そういえば風呂から部屋に戻る時卓球場があったな。後で青八木と卓球でもやりに行くか。…一花ちゃんも誘ったら来るかな、運動好きみてーだし。


「…けど青八木のやつ、どこ行ったんだ…?」


1人ごちながら、部屋のちゃぶ台の上に置いたスマホで時間を確認すると、急に「用事」とだけ言って部屋を出てってからゆうに30分は経っていた。
そろそろ探しに行くか……と、思ったその時、部屋の外からドタドタと豪快な足音が聞こえてきた。そして勢いよく開かれる部屋の戸。そこで部屋に鍵をかけ忘れていたことを知って少し冷や汗をかいたが、この足音には心当たりがあった。
「邪魔するぜ!」と開かれた扉から現れたのは、オレの予想通り田所さんだった。


「手嶋、ちょっと来い」
「へ?た、田所さん…!?どうしたんですか急に」
「いいから!来い!!」


ただならない様子の田所さんの言う通りに、オレはスマホだけポケットに突っ込んで田所さんの後ろをついて行った。
一体なんだ…?田所さんが強引なのはよくある事だけど、今日はなんか…様子が違うっつーか……もしかしてオレなんかやらかしたか…!?


「おう、入れ」
「は、はい……」


田所さんに連れてこられたのはさっきまで夕飯を食ってた食堂の前。一体なんだ…と思いつつもオレは恐る恐る戸を開けた。


──パァン!


扉を開けた途端、いくつも響く破裂音。それと漂う火薬の匂いに視界に広がる色鮮やかな紙吹雪。そして食堂に響き渡る「おめでとう」、「おめでとうございます」って仲間の声。


「え……?」


状況が把握しきれず、思わず間抜けな声が出た。
呆然と立ち尽くしていると、後ろから強く背中を叩かれた。これはわかる、田所さんの手だ。かなり痛い。


「誕生日だろ、オメーのよ」
「あ、そういや…!」


レースのことで忙しくて、つい忘れていた。9月11日……オレの誕生日だ。
まさか部室じゃなくてこんな遠征先の旅館で祝って貰えるなんて。


「何呆けてんスか手嶋さん!主役がんなとこ突っ立ってたら始まらんでしょ!」


ほらこれ付けて下さい!と鳴子にされるがままに『本日の主役』と書かれた赤と白の薄っぺらくて安っぽいタスキが肩からかけられて、頭に乗せられたのは…パーティ用の王冠か?なんかギラギラしたのが見えた。


「はは、何だよこれ、恥ずかしいんだけど」
「よく似合ってるぞ、純太!」
「あ、ああ…ありがとな、青八木」


こんなアホっぽいパーティーグッズが似合うとはネタでよく言われるけど、青八木の目はいつも通り大真面目だ。いつもならオレもふざけて返したりするけどこうマジで返されるけど流石に照れくさいというか恥ずかしいわ。

それからいつの間にか用意されたバースデーケーキを囲んで、蝋燭の火を吹き消して…唐突に始まる鳴子による田所さんや今泉のモノマネ芸。ってもこれは殆どヤジを入れた田所さんと鳴子の漫才だったな。笑いすぎて腹がいてーわ。ちなみにモノマネの方はオレの方が多分上手い。
しかし…久々にこんなに笑ったような気がする。巻島さんの退部、小野田の不調…それから、強くなんなきゃって練習も今まで以上に量を増やした。なんとなく
部全体がずっと気を張ってるような感じだったから、オレにとってもみんなにとってもいい気分転換だったんじゃねーかな。
小野田は……なんとか笑ってはいるけど、多分オレに気遣っての事だろう。


「あ、あの…っ、手嶋さん…!」


そろそろいい時間だし、お開きになりそうな時に少し慌てた様子で一花ちゃんに呼ばれた。しかも少し顔が赤い。
…さっきからあんま視界に入れたらヤバいと思ってあえて目逸らしてたんだ。今の一花ちゃんは旅館のシンプルな柄の浴衣姿に、髪は緩くアップにされていて…なんつーか、色っぽいなって思っていた。夏祭りの時の華やかな浴衣姿とはまた違う魅力で、視界にちらちら入る度に息が詰まるようだった。
その一花ちゃんはオレの方へ近づいて来るから、視界から外すって事が出来なくてつい彼女から目が離せなくなる。ああ、やっぱ一花ちゃんめちゃくちゃ可愛い。


「これ…、みんなからです…!お誕生日、おめでとうございます!その…これからもよろしくお願いします…!」


ぺこっと頭を下げられて、両手で何かを突き出された。
その何かは緑色の煌びやかな紙と金色のリボンのついた筒状のラッピングだった。
みんなからのプレゼント…って事だよな。


「ありがとう、一花ちゃん。オレの方こそこれからもよろしくな!」


そう言ってそのプレゼントを受け取ると、一花ちゃんは「はい!」って満面の笑顔を浮かべた。そして周りから開けてみろって促されて、そのラッピングを開けた。


「ボトルだ…!丁度変えようと思ってたんだよな…!」


その包みから出てきたのは、デザインはシンプルだけど素材のしっかりした丈夫そうなボトルだった。ありがたいな、丁度使ってたのがくたびれてきてたし、そろそろ買い替えようと思っていた所だった。


「先輩方もありがとうございます!お前らもサンキューな!」


そう言うと、今日何度目かの拍手が上がった。


今年はいい誕生日だったな。こうして遠征先なのに祝ってもらえて、馬鹿みたいに笑わせてもらえて…それに、好きな子からこうやってプレゼントもらえるなんて。



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