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「さて。ミーティングを始めるぞ」


部室のパイプ椅子に深々と腰掛けた田所さんの真剣なその声で、部室内に緊張が走る。その周りに立って整列した私達は一斉に返事をして、息を呑んだ。


「9月11日……この日が何の日かは知っているか」


私の隣にいたお兄ちゃんが一歩前に出て、私達一年生にそう聞いてきた。一見するといつも通りの無表情だけど、いつもより真剣みを感じる。


「9月11日て…熊本に出発する日やないんすか」


鳴子くんの言う通りだ。
この日はインターハイ優勝校として招待された熊本で開催される火の国やまなみレースに参加する為に、熊本に前日入りする日だ。

だけどもう一つ…少なくとも私とお兄ちゃんにとってはもっと大事な日でもある。


「それもある…。けど、違う」
「なんなんすか、もったいぶらんと教えて下さいよ、青八木さん」
「鳴子の言う通りです。時間の無駄です」


じれったそうな鳴子くんと今泉くんに、はあ、と田所さんはため息をついた。そして、私を見てきた。まるで『一花は知ってるな?』…そう言いた気に。


「手嶋さんのお誕生日、ですよね…!」


そう答えると、田所さんもお兄ちゃんも満足そうに頷いた。周りにいる私の同級生たち…鳴子くんと今泉くんは思い出したように「ああー」と言って、小野田くんは覇気の無い声で「そうだったんですね…」と言った。
…小野田くん、心配だな…。巻島さんの突然の退部でここの所元気がない。無理に明るく振る舞っているようにも見えるから余計に…。だけど私にできる事はせいぜい落車して傷を作るたびに手当をしてあげる位だ。もどかしいけど…こればかりは何かきっかけがあるか、時間が経って立ち直っていく姿を見守るしか無い。

とにかく、今はこのミーティングに集中しよう。
手嶋さんのお誕生日である9月11日は私にとっても大切な日だ。いつもお世話になってる先輩だし…それに何より、好きな人のお誕生日だもの、ちゃんとお祝いしたい。

そう、このミーティングはその手嶋さんのお誕生日をどうお祝いするかを相談する為のもの。だからこの場には主役である手嶋さんは当然いない。


「遠征先だから、できる事は限られているが…その範囲で盛大に祝ってやりたい」


インターハイでは、随分あいつに助けられたからな。と金城さんは口角を上げていた。田所さんも「そういう事だ」と笑って頷いている。

それからミーティングの結果、祝うなら11日の夕飯を済ませた後で、宿泊先の旅館の人に事前に言って食堂を借りて……という事になり手嶋さんが部屋に戻ってから準備に取り掛かる算段に決まった。そしてその準備が整ったら、田所さんが手嶋さんを部屋から連れ出す。
同室のお兄ちゃんが…という話もあったけど、時間がないから有無を言わさずに引っ張って来れる田所さんの方がいいだろうと言う事でそう決まった。
そして食堂に手嶋さんが入ってきたらみんなで一斉にクラッカーを鳴らしてお祝い…というお決まりの流れに。
ここまではスムーズに決まった。あとの問題は、プレゼント。


「一花、お前が渡してやれ」
「えっ!?」


突然田所さんに振られて、思わず大きな声が出てしまった。


「そ、そんな…!お兄ちゃんか田所さんからの方が手嶋さんも嬉しいんじゃないですかね…?」


そりゃあ私から渡して喜んでもらえたらそれはすごく嬉しいけど…。でも憧れの先輩の田所さんか、いつも一緒に走ってるお兄ちゃんからの方が手嶋さんは嬉しいんじゃないかな…。
と思っていると、お兄ちゃんが「一花」といつもよりも強めの口調で私を呼んだ。
この口調…お兄ちゃんがいつも私を怒る時の呼び方だ。子供の時からの条件反射で思わず方がびくっと跳ねた。


「田所さんに口答えするな。お前が純太に渡せ」


なんて理不尽…!口答えなんかしたつもり無いのに!
だけど、「でも」も「だって」も言わせないと言わんばかりのお兄ちゃんの眼力に逆らえなくて、結局私は頷いていた。ああもう…お兄ちゃんのこの目、子供の時からホント苦手!


「決まりだな。渡すタイミングはオメーに任せるぜ」
「は、はい…、わかりました…!」


本当に私でいいのかと思う反面…本当は嬉しかった。
お兄ちゃんと田所さんがこんなに私から渡せって言ってくるってことは、手嶋さんが嫌がらないから…だと思うのは自惚れかな…。




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