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総北高校に入学して、自転車競技部にマネージャーとして入部してから、4ヶ月が経った。
まだ少し肌寒かった入学したての頃、淡い桜の花を咲かせていた木は今は鮮やかな緑の葉だけを茂らせている。日差しも強くなって、外に数分居るだけで汗が吹き出してくる程の気温。部室でドリンク作ったり、機材の清掃や備品の整頓といった雑用ばかりしている私ですら暑いのだから、きっと外を走っているみんなが感じている暑さは私の比じゃないだろう。

こんな灼熱の中をみんなは明日から3日間、全力で走る。
とうとう明日から、インターハイが始まる。

この4ヶ月……あっという間だったな。けど色々あった4ヶ月だった。みんなこの日のために一生懸命練習を積んできた。辛い練習にもみんなよく耐えたと思う。みんなの走りを見てても、記録を見てもチームが春先に比べて強くなっているのは一目瞭然だ。きっといい結果を…ううん、優勝できるって信じてる!


…それにしても。

インターハイ前日の準備がこんなに大変だとは思わなかった…!!
そりゃ泊まりがけのレース、それもこんな大舞台なんだから当たり前だけど…持ってくスペアの機材も、ケア用品や補給も普段のレースの倍でなかなか準備が終わらない。
明日は私と幹ちゃんも同じくサポートメンバーの手嶋さんとお兄ちゃん、それから杉元くんとも手分けして準備はしているけど、それでもなかなか大変だった。でもその準備も、あとはこのダンボール箱を明日の早朝にここへ来て、現地まで荷物を運んでくれる寒咲さんのバンにすぐ詰め込めるように荷物を纏めてある部室の一角に移動させるだけで終わり。

早く移動させて、終わらせようと段ボール箱を持ち上げようとした……のだけど。


「…重たっ…!」


思った以上にそれは重たくて、私の力じゃ軽く持ち上げるだけで精一杯だった。当然持って歩けやしない。一体何が入ってるのこれ…!!


「あー!一花ちゃんそれいいから!オレ運ぶから!」


少し離れた別の場所で作業してた手嶋さんが、私が箱を運ぼうとしている事に気付いて慌てた様子で駆け寄って来てくれる。大丈夫です、運べます!…と言いたいところだけど、さすがにこの重さは私一人じゃ無理だ。とりあえずその箱は床に置いて、手嶋さんが来てくれるのを待った。


「これ重かったろ?オレ持つから」
「でもこれすごい重かったですよ?一人じゃ──」


言い終える前に、手嶋さんは私が床に置いたダンボール箱を持ち上げていた。私は持ち上げるだけで精一杯だったのに、フラつく様子もなく。


「少し重いけど、平気だよこれくらい。これでも鍛えてるからな」


手嶋さんは少しも辛そうな表情を見せず笑った。
手嶋さんも細いけどやっぱり男の人なんだな…って、改めて意識してしまって顔にほんのりと熱が集まってくるのを感じた。
すいすいと箱を運び終えた手嶋さんは、深く息を付いてからまた私の元へ戻ってきた。


「そっち終わった?」
「はい、今ので最後です。ありがとうございました、手嶋さん」
「どうってことないよ、これくらい。それより疲れたろ?少し休憩しようぜ」


手嶋さんは部室のパイプ椅子に座って、んーっと思い切り伸びをした。私もその向かいにある長椅子に腰掛けて息をついた。途端に体に重さと疲労感を感じる。準備してただけなのに、こんなに疲れてたなんて…。やっぱり夏の暑さは堪えるな。
それに、明日からとうとうインターハイが始まるんだと思うとなんだかドキドキしていた。コースを走る訳でもないのに。みんなを上手くサポートできるかっていう緊張とか、みんなの今まで部活してきた中で一番全力の走りが見れるっていうワクワク感で気持ちが高揚していた。


「あっという間だったな、今まで」


ぽつりと呟いた手嶋さんに、「そうですね」と返した。


「楽しみです、インターハイ」


手嶋さんとお兄ちゃんが焦りを感じる程に強く憧れて、チーム2人を結成するきっかけになったインターハイをこの目で見れるのが。


「すげー熱気だよ、いつものレースと違って全国から強い奴らが来るからな。ギャラリーの声援もすげーし」
「そっか、各校のサポーターとかも来るんですもんね…!それは熱気すごそうです」
「応援の声だけじゃねーよ、選手の気迫…っつーのかな、ゴール前は特にすげーんだ!」


そう語ってくれた手嶋さんは楽しそうに目を輝かせていた。そんな彼を見ていて、微笑ましくなったけど同時に…少しだけ胸が痛んだ。…インターハイ、出たかったろうな。


「サポートも結構大変だけどさ、頑張ろうな」
「はい!もちろんです」
「お、いい返事。頼りにしてるぜ、マネージャー!」




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