6
「…………」
「……」
「……んん……」
「……」


あー!クソ、落ちつかねぇ…!!

青八木との無言の時間がって事じゃない。寧ろ青八木といるとこういう時間が自然と多くなる。落ち着かないのはもっと別の事だ…胸がザワザワして掻き乱されて、振り払おうとしても込み上げてくる焦りのせいで全然落ち着かない。
その原因もわかってる……原因は、一花ちゃんの事だ。

部活後呼び出しされているからと彼女に飯の誘いを断られたオレは、青八木と2人で駅前のファミレスに入った。一花ちゃんに断られてしまったのは残念だったけど、先約があるなら仕方ない。
…呼び出されていると聞いた時は一瞬胸がざわついた。呼び出したと聞けば嫌でも頭に過る相手は男からだ。同級生からも「チャリ部のマネージャー可愛いな」ってよく言われるし、一花ちゃんモテるだろうなと思ってた。それでもオレはその呼び出しの相手が担任の先生とかじゃないかって期待したかった。

が、オレの期待は残念ながら外れた。
自転車部の活動が終わる頃にもう部活終わったかと部室まで彼女を迎えにきたソイツはうちの制服を着た男だった。
顔、チラッと見たけど結構なイケメンだったなあ…いかにも女子が好きだろうなって顔で、背もオレより高い気がする。呼び出した目的も多分というかやっぱ、告白なんだろうな。そいつの一花ちゃんを見る目すげー優しくて、彼女に惚れてるのは間違いないだろう。極め付けに…その男と話す一花ちゃんも楽しそうだったもんだから余計に胸が針かなんかでチクチクと滅多刺しにされているようだったし、あれから頭の中がざわついて落ち着かない。


「……落ち着かないな、純太」


オレ達の間に流れる微妙な沈黙を破ったのは、珍しく向かいに座る青八木の方からだった。
…青八木はなんとも思ってねーのかな……態度や口には出さねーけど、可愛がって大事にしてる妹が他の男に色目使われてる事。…って、そりゃオレもか。


「ん?ああ……早くメシこねーかなってさ…」
「………」


なんて言ってみたけど、正直こんな落ち着かない状態でメシ食える気がしねーわ。
それは青八木にも伝わっちまってんだろうな。その証拠に、長い前髪で隠れていない方の目が少しだけ細められてオレを疑うような視線を向けてくる。
口よりもうるさい青八木の目は今、オレにこう訴えてくる。


『嘘だろ。話せ』


ああ、くっそ…!察しろよ青八木…!!
お前もオレの言いたい事なんとなくでもわかんだろ!オレお前よりわかりやすいだろ…!
なんて、頭ん中で叫んでみたけどこうだって決めたらコイツは絶対変えない。オレが話すまでこのままの目力でオレに視線を送り続けるに決まってる。

クソ……悔しいけどかなわねぇわ……。


「オレは別に気にしてねーんだけどさ……一花ちゃんの事呼び出した男、お前は気になんねーのか?」
「……」
「ほら、あの男一花ちゃんに惚れてるみたいだったしさあ、呼び出しってのもきっと告白だろ?いやーモテるなあ、一花ちゃん!」


可愛い妹がいると大変だなあー。って誤魔化すように言ってみるけど無意識に早口気味になっていた。こんなのめちゃくちゃ気になってますって暴露してるようなもんだ。
随分前にドリンクバーでカップに注いだ紅茶をスプーンで混ぜると、底の方でザリっとした感触がした。砂糖入れてから混ぜんの忘れてたな。どんだけ動揺してんだよ、くそ、らしくねぇ。
けど当然だろ……好きな子を他の男にとられそうになってんだ。


「あいつ、よく一花と話してる」
「えっ、あの男知ってんの?」


こく、と頭が縦に振られる。


「悪いヤツじゃない」
「そっ…か…あー、いや、悪いやつじゃねぇんならいいんだ。変なヤツに言い寄られてたら可哀想だなってさ…」


青八木が悪いヤツじゃないって言うんだ、マジでいい奴なんだろうな…あー、顔がいい上に性格もいいとかズルすぎるだろ、何したらそんな風になれんだよ。

けど……一花ちゃんもアイツのこと好きなら、オレがどうこう言う筋合いねーよな…一花ちゃんが幸せになんのが一番だし。
と、頭ではそう思ってんのにあの男と一緒にいた時の楽しそうな笑顔が脳裏に浮かんで、チクリと胸が痛んだ。


「…でも、オレは純太と付き合って欲しいと思ってる」
「だよなあ……オレじゃ……」


って……今青八木は、なんて言った?
思わず目を見開いて青八木の顔を見ると、青八木はフッて笑った。


「…お前、一花の事が好きなんだろう」


バレてる…!!

いや…別に隠していたわけじゃない。ただ青八木に気付かれるのが恥ずかしかった。いつかは話すべきだとは思っちゃいたが、相棒が自分の妹に惚れてる…なんてどう思われるか。
けどまさか、オレの方がいいだなんて言われるなんて。しかも色恋には縁遠いヤツだと思ってたのに、見抜かれていたなんて……あーくそ、顔があっちぃ。


「気付いてた…のかよ」


こく、と青八木の頭が小さく縦に振られる。そして…「見ていればわかる」とその目が言った。まぁそりゃそうだよな、コイツ一番オレの事近くで見てんだもんな。しかもオレを応援してくれてる。照れるけど…心強いわ。

今はとにかく、あの男と一花ちゃんの仲が進まないで欲しいと願っていた。



30/96


|


BACK | HOME
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -