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合宿が終わってから暫くして、オレと青八木の肉離れを起こしていた両脚はようやく回復してきた。まだ合宿前ほどのメニューは無理だけど、少しずつまた練習を再開していた。
その軽めのメニューを青八木とこなして、補給の為に一旦一人で部室へ戻るとデカイ段ボールの中をごそごそしている一花ちゃんがいた。


「おつかれ、一花ちゃん」


オレに気が付いた一花ちゃんは慌てて立ち上がって、「お疲れ様です!」っていつものように弾む声で返してくれた。


「それ一人で平気か?」
「はい!もう終わるので大丈夫です」


一花ちゃんがゴソゴソしていたでかい段ボールの中身は、結構前に注文していたが業者のミスでなかなか届かなくて今日漸く届いた消耗品の山。元々インハイ前で練習量が増えてテーピングとかの減りが早い為にいつもより多目に注文していたのもあるが、業者がお詫びにとおまけしてくれた物もあっていつもより一回りは大きい段ボールで届いた。その仕分けを彼女は一人でやってくれていた。


「手嶋さんのサイジャ姿…久々に見た気がします」


気が付けば一花ちゃんはオレをまじまじと見上げていて、思わず一瞬息を詰まらせた。彼女の言う通り、ずっと練習にはいつものTシャツを着てサポートで参加していたから、サイジャを着て走るのは少し久しぶりだ。


「ああ、オレも久々に着たよ。やっぱこれ着て部活する方が落ち着くわ」
「私も嬉しいです。また手嶋さんとお兄ちゃんの走りが見れるのと、サポート出来るのが」


ふわっと嬉しそうな笑顔にまた胸がぎゅっと掴まれたようだった。嬉しいとかそんな事いいながらその可愛い笑顔はマジで反則だ、走った後でやっと落ち着いてきたと思った心拍数がまた早まってやがる。けどこの笑顔のおかげでまた頑張ろうって思えんだ。


「あ!そういえば手嶋さん!この間のお金払わせて下さいよ!」
「言ったろ?あれはオレがやりたくてやっただけだからいいってさ」


一花ちゃんの言うこの間のお金…というのは、駅前に消耗品の買い出しに行った時、バスが来るまでの間時間潰しに入ったゲーセンで一花ちゃんの欲しがっていたフィギュアをクレーンで取った時の物。
一花ちゃんはかかった金額を払うと言ってきたけど、オレはそれを断った。
本当にアレはオレがやりたくてやったんだ。これ獲れたらすげー喜んでくれるかな、ってさ。思った通り、っていうか寧ろ目をめちゃくちゃ輝かせて予想以上の喜び方をしていた。そんな彼女を見てオレもすげぇ嬉しかったんだ。寧ろクレーン代以上の価値があったわ。しかもオレが獲ったから尚更大事にする、なんて事まで言ってきて…大事そうにフィギュアをぎゅっとかかえて、嬉しそうに満面の笑顔を浮かべていた彼女は物凄く可愛かった。心臓が体を突き破って出てくるんじゃねーかって位にドキドキした。あれはとんでもない破壊力だったな…。


「んん〜……じゃあ手嶋さん、欲しいものとかありますか?それかして欲しい事とか…!」
「…え?」
「せめて何かお礼させて下さい!この間の事だけじゃなくて、手嶋さんには本当に色々お世話になってるので…」


欲しいものとかして欲しい事……って、その聞き方はダメだ一花ちゃん…!
男子高校生なんて煩悩の塊だぜ?女子のいないとこで女子には聞かせられない下ネタで盛り上がってたりすんだぜ?当然オレの頭にも一瞬邪な考えが浮かんでしまった訳で…。

…もしかして一花ちゃんもそういうの期待してたりして──って、何考えてんだよ純太!!一花ちゃんのこの純粋な目を見ろよ!んな訳ねぇだろ!


頭の中でひとしきり騒いでから、一層騒がしくなった心臓を落ち着かせる為に小さく息を深く吸って吐いた。


「いやー…すぐにはちょっと思いつかねぇな…」


そう言ったものの、一花ちゃんはじっとオレの目を真っ直ぐに見ていた。
あー、知ってるわこの目。こうと決めたら絶対引かねえって目だ。この眼力誰かさんにそっくりだ。…こりゃ何か言わねーと引き下がってくれないな……。


「えーっと…何か思い付いたら言うよ。だからそれまでこれは保留で頼むわ」
「わかりました。思い付いたら絶対教えてくださいね!」


ああ、わかった。そう言うと一花ちゃんはまたにこりと笑った。やっぱ、変な事はお願いできねーわ……。彼女の事が好きだからこそ余計に。


「あ、そうだ。部活終わったら青八木とメシ行くんだけど、一花ちゃんもどう?」


部活が始まる前、今日は青八木と飯食って帰る約束をした。部活終わった後一花ちゃんも腹減ってるだろうからと思って声をかけたが…内心すげードキドキしてる。青八木もいるとはいえ、好きな女の子を誘うなんて人生で数えられる程しか無い。
けどなんとなく、自惚れかもしれないが一花ちゃんは断らないような気がした。
その証拠に…彼女は嬉しそうにぱあっと表情を輝かせた。

けど、それは一瞬でどんどんその輝きは沈んでいって、終いにはしょんぼりとした顔をしていた。


「…すみません……今日はこの後呼び出しされてて……」



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