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4日間の合宿が終わった。けど、オレと青八木が走り切れたのは3日目の夜までだった。
自信満々に今泉達に勝負を仕掛けておいて、結局負けちまった上に2人揃って怪我して…リタイアした。
作戦も完璧だと思った。勝てる青写真もあった。途中までは上手く行ってたんだ。けど一年の、特に小野田の成長速度の速さがオレの作戦の上を行っていた。
作戦を無くしたオレ達は最後文字通り全力全開のゴール前スプリントをして…あと一歩の所で足が悲鳴を上げた。青八木と2人揃って肉離れを起こした。当然治るまで自転車にも乗れない。

…田所さんとインターハイ出場ってオレと青八木の目標は、もう叶わなくなってしまった。

けどいつまでも腐ってたって仕方ない。今年のインターハイへ出れない事への悔しさは散々青八木と2人で泣いて悔しんだからある程度は吹っ切った。まだオレらには来年がある。来年は絶対に2人で行くぞって青八木と固く決意して。


……そう決めたはいいんだが、合宿明け最初の登校の今日は少し気が重い。

あれだけ合宿中、一花ちゃんの声援が恋しいと思っていたのに、今はその彼女と顔を合わせるのが億劫だった。申し訳無い気持ちだった。一花ちゃんもオレ達に期待してくれていた、応援してくれてた。しかもあれだけ勝ってくると言っておいてこの結果だ。
青八木から結果を聞いているだろうけど……情けねぇ事に、少しだけ彼女に会うのが怖かった。優しい一花ちゃんの事だ、別に言葉にはしないだろうけど内心では失望されているかもしれない。そう思うと胃の辺りがキリキリした。





「あ、手嶋さん!おはようございます!」
「…おはよう」


合宿当日から多少は痛みの引いた脚を庇いながら振替補習の教室前に向かうと、既に教室の前には青八木がいて…その隣に一花ちゃんもいた。
いつもと同じ明るい笑顔を浮かべながらオレに手を振る姿に、合宿の前ならオレも笑って振り返していたんだろうけど……今は目を逸らしたくてたまらなかった。


「あ、ああ……おはよ」


どうにか一花ちゃんの目を見て挨拶は返せた。けど上手くは笑えていなかったと思う。


「合宿、お疲れ様でした」
「ああ……サンキュ」
「脚は平気か?純太」
「さすがにまだ痛ぇよ。お前も同じだろ?」


青八木は頷いた。同じタイミングで同じ箇所を同じくらいの度合いで怪我したんだからな。怪我した直後はこんなこと考える余裕なかったけど、今となってはこんなとこまでシンクロすんのかよって笑っちまうわ。


「…先、教室入ってる」


そう言いながら、青八木はオレと同じように脚を庇うように歩いてるくせにすたすたと教室に入って行った。「オレも行く」って後を追いかける隙も与えられずにガラガラと音を立てて閉められる扉。そして廊下に取り残されるオレと一花ちゃん。
まさか青八木のやつ、わざとオレ達を2人きりに…?い、いやまさかな……。


「あの、手嶋さん」


さっき明るく挨拶をしてくれた声とは対照的に、少し低いトーンで一花ちゃんに呼ばれて青八木が閉めた扉から彼女に視線を移すと、彼女は申し訳なさそうな顔をしていた。


「…すみません、手嶋さん」
「え…?」
「私……手嶋さんに色々プレッシャーかけちゃってたかなって思って…その、大事な合宿前にあんな話までしちゃって…」


もう一度一花ちゃんは「すみませんでした」って今にも泣き出しそうな顔で謝ってきた。あんな話…って一花ちゃんの中学時代の話か。
…彼女もオレと同じく、オレに申し訳ないと思ってたのか。きっと合宿の結果を聞いた時から悩んでいたんだろうな…彼女の表情からなんとなくそんな気がした。


「何言ってんだよ。プレッシャーだったなんて思ってねぇよ。『信じてる』って言ってくれた事、オレすげー嬉しかったよ。中学時代の話してくれたのも、さ」


寧ろ一花ちゃんに期待されて、過去の話を聞いて尚更頑張ろうと思わなければ一年相手にここまでやれていたかすら分からない。本当に彼女には感謝している。


「つか、オレの方こそごめんな…せっかく応援と期待してくれてたのにさ…」
「そんな、謝らないで下さい…!その…2人が頑張ったことはわかりますから」


一瞬、一花ちゃんの視線がオレの脚に落ちた。…この脚を見ればわかる、そう言いたげだった。


「ここに来る前、今泉くんと鳴子くんに会って聞きました。2人は本当に強かったって。最後少しでも油断してたら自分たちが負けてただろう…って」
「はは…んな事言ってたのかよ、アイツら」
「はい!あと小野田くんが手嶋さんのお陰で1000キロ走り切れたんだ、って感謝してたって事も」
「んな事まで…ったく、別に大した事してねーのに」
「何言ってるんですか!すごいですよ、自分を負かした後輩を次の日には手助けするなんて!そう簡単に出来る事じゃないと思いますよ!?」


そう言って見上げてくる一花ちゃんの目は、いつもオレをすごいと褒めてくれる青八木の真っ直ぐな目に少し似ている気がした。ったく本当この兄妹は…こんな真っ直ぐな目で褒めてくんだから。顔から火が出そうだ。
けど……やっぱ嬉しいな、好きな子に褒められるって。


「私は、手嶋さんが自分の事を何て言おうとすごいって思ってるんですから」


…本当、反則だろ…そんなぱあっと明るい可愛い笑顔でんな事言うなんて。心臓、すげードキドキ言ってるよ。

けどホッとした。失望されるどころか、こそばゆいけど逆にこんな褒められるなんて……やっぱオレは一花ちゃんのこの太陽みたいな笑顔とキラキラとした目が好きなんだって改めて思った。




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