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今年も始まった1000キロ合宿。
オレも青八木も、2日目の今日を無事に走りきる事が出来た。ペースも順調…これなら予定通り明日の夕方には一年に勝負を仕掛けられそうだ。

にしても……一花ちゃんの声援が無いっつーのはどうにも落ち着かない。
つい半年前まで女の子の声援が無いのは当たり前だったのにな。それほどオレの中で彼女の存在は大きくなってた…って事か。はあ、こりゃ自分で思ってる以上に重傷だわ。


『信じてます。お兄ちゃんと、手嶋さんのこと』


合宿出発前に一花ちゃんから言われたこの言葉。
すげぇ嬉しかった。一花ちゃんがオレらに期待してくれてるって事を改めて実感した。それに、彼女の過去を知った今、尚更頑張らねーとって思っている。
何より…好きな子に応援されてんだ、負けられない。
青八木と一緒に田所さんとインターハイへ行くっつー1年の時からの大きな目標もある。今年を逃したら、もう田所さんとはインターハイで一緒に走る事は出来ない。何がなんでもこの作戦を成功させて、一年に勝って行くんだ、インターハイに。青八木と一緒に!

ともかく、明日が勝負だ。早く風呂入って、明日に備えてしっかり休もう。


「青八木、そろそろ風呂─」


風呂行こうぜ、そう言い切る前に床に置かれた青八木のスマホが鳴って画面にLIMEのメッセージ通知が見えた。こういうの仲良いやつでもあんま見ちゃダメだってわかってんだけど……内容がオレには衝撃的すぎて、目が離す事が出来なかった。


『一ちゃんに会えなくて寂しいでーす。早く帰ってきて〜』


どう見ても女子から……だよな…?
嘘だろ、青八木ってそういう関係の女の子いたの…!?たしかにコイツいい奴だし、無口だけどふとした時に意外と漢気あるんだなって思うし、顔だって悪くない。多分魅力に気付かれたらすげーモテるんだろうなって常に思ってる。
彼女とかいてもおかしくねーんだろうけど……それでもショックがデカい。何がって、一言もそういう話をされなかった事が。オレら部活だけの付き合いじゃねぇだろうが…!!


「…どうした、手嶋」
「あ、ああ……スマホ鳴ってたぞ。なんだぁ、女の子からかぁ〜?」


流石に画面見えた…とは言えないから鎌かけてみた。
青八木は床のスマホを拾って指先で画面を突いている。メッセージを見ているようだ。それから少ししてから何やら微笑ましそうにフッと笑った。え…何その顔、やっぱりマジで彼女なのか…!?


「おいおい…何ニヤけてんだよ?なんか可愛い内容でも来てた?」
「……違う。一花からだ」
「へ……あ、なんだ、一花ちゃんか…!」


なんだ一花ちゃんか…さっきのLIME…。すげぇ焦ったわ。

って……え?

さっきの通知には確かに『お兄ちゃん』、じゃなくて『一ちゃん』って書かれてた。しかも寂しい、とか……

まさか……この2人、兄妹の枠を越えて……?え…マジ、かよ……!
この兄妹仲良いし、あり得そうな気がしてくるから怖い。人の恋愛事情に口出しする気はねぇけど…さすがに兄妹はまずいだろ青八木…!!しかもこれがマジならオレは失恋ってことに……い、いや、まだ決まったわけじゃないだろう。


「一花ちゃん…何だって?」
「……」


恐る恐る聞いてみると、青八木は言葉の代わりにスマホの画面を見せてきた。画面には一花ちゃんとのLIMEのメッセージ画面が表示されている。見ていい、って事か。
今日最新のやり取りの一番上には、さっき通知で見たメッセージ。
その下には…もさもさの犬の写真。青八木家で飼ってるパピヨンだ。


『お兄ちゃんがいないから寂しがってるよー。洗ったばっかのTシャツ毛だらけ』


犬の写真をよく見てみると、その毛の塊の下には青八木がよく着ている『!』マーク入りのTシャツ。
つまり……最初のは一花ちゃんが犬の気持ちを代弁したやつ、って事か。よかった……すげぇビビったわ…!一気に体の強張りが解けていく。


「ははっ、可愛い。青八木懐かれてんのなー」


じっとその犬の写真を見ていると、ぽんって気持ちのいい音と共に新しいメッセージが送られてきた。


『調子はどう?』
『明日、勝負なんだよね?手嶋さんから聞いたよ』
『大変だと思うけど…2人の事、信じてるからね』


どくんって心臓が跳ねた。
昨日の朝言われた言葉と同じ物だし、声は聞こえないけどやっぱり嬉しいな。好きな子に応援してもらって、期待してもらうのってこんなに嬉しいもんなのか。


「……」
「…どうかしたか、手嶋」
「あ、わりぃ。一花ちゃん、オレらの事期待してるってさ」


気付けば口角が無意識に上がっていた。
今来てたよ、って教えてやると青八木はスマホの画面を見て口角を微かに上げて笑った。


「頑張ろうぜ、青八木。明日…1年を負かして田所さんとインターハイだ!」
「…ああ!」



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