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「これ、他の一年には内緒な?」
「はい!」


私は手嶋さんにインハイメンバー選出方法を尋ねた。
そしたら手嶋さんは辺りをキョロキョロ見回して、私の背に合わせて少し身を屈めてきて…顔同士が少し近くなる。突然近くなった距離に一瞬心臓がドキッと高鳴るのを感じて、思わず息を止めた。
…手嶋さん、近くで見るとやっぱり目大きいなぁ…。


「今度合宿あんのは知ってるよな。その合宿で選ばれるんだけど……」
「は、はい」
「まず4日で1000キロ走破は絶対。かつ6位以内でゴール。これで確定だ」
「へえ……」


1000キロか…結構走るんだなあ……

て、え……


「せ、1000キロ!?ほんとですかそれ!?」
「うお、声デカイよ!」


手嶋さんに窘められて、咄嗟に両手で口を塞いで籠もった声で「すみません」と謝ると「いい反応だけどな」って手嶋さんは面白そうに笑った。こんなの誰だって驚くって…!4日で1000って!えっと……一日250!?それでもかなりキツイのに…!!


「ほんとだよ。マージでキツイぜ。オレも去年は途中でリタイアしちまったし。…とにかく、これ他の1年には現地で話すって事らしいからさ、内緒な」


手嶋さんは悪戯っぽくウインクを投げてきた。…ウインク上手だなあ、しかもごく自然に。この表情で落ちちゃう女の子とかいるんじゃないかな……私も一瞬ドキッとした……
じゃなくて!今は合宿の話!
手嶋さん大分軽く言ってるけど、絶対みんな驚くよね……当日内容話されたんじゃ尚更。みんなの反応が目に浮かぶなあ……。


「けど、今年は完走しねぇとな…青八木と一緒に、田所さんとインハイ走るんだって決めてるからな」


そう語った手嶋さんの顔は真剣だった。
そうか、今回を逃したら2人が憧れている田所さんとはもうインハイでは走れないのか……なら絶対逃せないに決まってる。


「今年は1年もやべーの揃ってるしな…一筋縄じゃ行かなそうだ」
「そっか…6位以内って事は今泉くん達と勝負になる可能性もあるんですよね」
「ま、そういう事だな」


手嶋さんは肩を竦めた。
最低条件がハードな上に、さらにそこに全力バトルが加わったらもうきっとキツイどころじゃない。だけど…インターハイっていう大舞台で手嶋さんとお兄ちゃんに走って欲しいって思う。インターハイの空気を体感したことないから、どれだけすごいのかっていうのはなんとなくしかわからない。けど、チーム2人が結成するきっかけになったそれは、きっと私が思っている何倍もすごいものだろう。そんなすごい舞台で、2人の全力のチームワーク走法を見せて欲しい。そして他校の選手を圧倒して欲しい。


「手嶋さん、私……えっと…その」


2人にインターハイを走って欲しいんです。

そう伝えたかった……けど、その言葉を喉から出す事は出来なかった。
マネージャーとしてどうなんだろうって考えが過ぎってしまったからだ。選手を贔屓するなんて良くない事。
マネージャーって立場がこんなにもどかしい物だなんて、思ってもなかった……。

言葉の続きが浮かばなくて、思わず視線を泳がせたり口籠っていると手嶋さんの短く笑う声が聞こえて…それから、ぽんと手嶋さんの手が頭の上に乗っていた。


「絶対勝って青八木と行くよ、インターハイ」
「…!」


思わず胸が詰まるような感覚になった。
手嶋さんはぽんぽんと優しく私の頭を叩くようにして撫でてきて…家族以外の男の人にこうして撫でてもらった事なんて殆どないから、当然私の頭は何が起きたのか分からない。


「いつもありがとな、一花ちゃん」


それから追い討ちをかけるように手嶋さんはくしゃっと無邪気に笑ってきて……音が聞こえちゃうんじゃないかってくらいに私の心臓はドクンと高鳴った。それからぎゅううって胸のあたりが締め付けられてるような……
なのに、頭から手が離れてしまって寂しいような気持ちにもなってる。


「あっ、やべ練習戻んねーと!長居しちまってわりぃな、一花ちゃん!」


また私に笑顔を見せて、軽く手を振って手嶋さんはバタバタと部室を走って出て行った。

…頭を撫でられてから今まで、何も言えなかったな……。
だって、今のたった数秒のやり取りは私にとってあまりにも──


「って…あれ……」


頭撫でられた事が大きすぎて気が付かなかった。
手嶋さん…もしかして私の思ってたこと、わかった…のかな?いつもお兄ちゃんの考え読んでるみたいに。

あれ…なんで私こんなにドキドキしてるんだろ……。



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