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私は数字とは多分生涯仲良くはできないと思う。だって表に数字が並んでるだけで目眩がするような感覚になる。将来の事はまだよくわからないけど、数字を扱うような仕事は絶対にしたくないと思うし、する気も無い。

でも、部員のタイム表…これも数字ばかりだけどこれを見るのは毎日の楽しみなんだ。みんながどれだけ頑張ったのか、どれだけ速くなったのかがわかる。

部室の机の上に置いたノートパソコンのモニターに映る数字の表を見て、思わず顔が緩む。

…みんな頑張ってるなあ。

3年の先輩達は着々とタイムをあげてるし、その先輩達に勝ちたいって強い気持ちを抱いてる同級生達もどんどん速くなってる。あ、今泉くんと鳴子くん…昨日は鳴子くんが僅差で勝ってる。今日はどっちが勝つかな。
それから、2年生…お兄ちゃんと手嶋さんもどんどん速くなっている。あともう少しで目標タイムを切れそうだ。

2人は来週、二年生限定のレースを控えている。
小さなレースだけど、気を抜きたく無いと意気込んだ2人はいつもより練習量を増やしている。その甲斐あって徐々に記録が伸びていた。練習を見ていても2人とも調子良さそうだし、きっとこれなら…!


「今度のレース、これなら余裕だな」


後ろから太めの声が聞こえて、振り返ると田所さんがパソコンを覗き込んでいた。田所さんの存在感に気が付かないくらい見入っていたなんて。慌てて椅子から立ち上がって「お疲れ様です!」って頭を下げると短く「おう」とだけ返ってきた。


「お兄ちゃんと手嶋さんですか?」
「ああ。頑張ってんじゃねーか、アイツら」
「はい!タイムもですけど、2人での走りも最近どんどん精度が上がってて!2人ともほんとに頑張ってます…!」


2人の頑張りを思い出すと勝手に顔が緩んでしまう。その成果が出ているんだと思うと嬉しい。…って、私はただ応援していただけで、何もしていないのだけど。

いつもの部活の練習に加えて、休みの日も2人は走ってるしそれだけじゃなくて走りの研究やいろんなパターンの作戦を考えている。本当に2人とも頑張ってる。速くなりたいって気持ちがすごく伝わってきて…応援したいって気持ちが強くなる。ああやって2人で一緒に強くなろうとしている姿には私も力をもらえるし。


「当然だ!あの2人は、オレが育てたからな!!」


前にお兄ちゃんと手嶋さんから聞いた。(お兄ちゃんは頷いてただけだけど)
今の自分達があるのは田所さんの教えのおかげなんだ…って、キラキラと誇らしそうな顔で話してくれた。お兄ちゃんもあんな顔するんだってちょっと驚いたのをよく覚えているし、2人があまりにも楽しそうに話してくれるから、私も釣られてなんだか楽しかった。

前に2人から聞きました、と言うと田所さんは得意げにふんっ、と笑って腕を組んだ。


「アイツらはな、去年どんどん脱落していく一年の中で唯一キツイ練習に耐えて、喰らい付いて教えを乞ってきたんだ。2人して強くなりたい、って真剣な顔でな」
「そうだったんですね…!なかなか出来ない事ですよね、そんなの」
「ああ、大した根性だよ、アイツらは。お互いがいたからだっつってけどよ、なかなか出来ねー事だな」


田所さんの表情は誇らしそうだ。お兄ちゃんも手嶋さんも自慢の後輩なんだろうな。なんだか羨ましくなってしまう位に素敵な先輩後輩の関係だ。


「もしかしたら、こりゃマジで今年のインハイ一緒に走れるかもしんねーな。一花もしっかりアイツらを応援してやってくれよ」
「はいっ!」
「っと、長居しちまったな。すまねェな、邪魔しちまってよ」
「い、いえ!練習頑張って下さい!」


田所さんは「おう!」と威勢よく返事をして私に背を向けて白いタオルとボトルを手にして部室の外へ出た。
田所さんが開けた部室の扉の外から、田所さんに頭を下げる手嶋さんの姿が見えた。それから2人で少し話し込んで、田所さんと別れた手嶋さんが入れ違いで部室に入ってきた。


「お疲れ様です、手嶋さん」
「おう、お疲れー…って、ずいぶんニコニコしてんな?何か美味いもんでも食った?」
「ふふ…っ。いえ、お兄ちゃんと手嶋さんはすごいって田所さんと話してたので」
「田所さんと?」
「はいっ、今度のレースも余裕だろうとか、今年のインターハイも一緒に走れるかもって言ってました」


手嶋さんは私から目を逸らして、唇をギュッと噤んでいた。
…嬉しくて笑いそうなのを堪えてるのかな…?手嶋さんもこんな顔するんだ。
そりゃあ憧れの先輩に褒められて、更に大舞台でも一緒に走れるかもって期待されているんだもの。嬉しくない訳がない。


「そっか…田所さんが…!っし、もっと頑張んねーとな!」
「私もしっかりサポートします!2人の頑張る姿には、私も力もらってますから」
「…!」


手嶋さんの元々大きな猫のような目が一瞬、驚いたように見開かれて、「ありがとな、一花ちゃん」ってニッとした笑顔を浮かべた。


「……ところで、インハイメンバーってどうやって選ばれるんです?」




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