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「え?チーム2人結成のきっかけ?」


部室の横の日陰にボトルを片手に座って、インターバルを取ってる手嶋さんに思い切ってそう尋ねてみた。ちなみに今お兄ちゃんは田所さんに呼び出されたのでこの場にはいない。手嶋さんと私だけ。

2人のコンビネーション走法に惹かれて、ファンになって、総北に来たっていうのに2人がどうして一緒に走っているか知らなかった。今日までずっとただ走りが好きで応援していたけど……ふと疑問に思ったら気になって気になって仕方なくなってしまった。
だって手嶋さんもお兄ちゃんもぜんっぜん合わなそうなんだもの。手嶋さんはよく喋るし、社交性がすごく高くて明るい。
対してお兄ちゃんは無口だし社交性なんて無いし…所謂陰キャラという部類に分類される、と思う。なのにすごく仲が良くて、自転車に乗ってない時でもずっと一緒にいる。そんな正反対の2人がどうして…。


「何かきっかけがあったんですよね?お兄ちゃんと一緒に走るようになった」
「まあ、そうだな……けどちょっと長くなるぞ?」
「私は全然大丈夫です…!手嶋さんさえよければ、聞かせてください」


念をこめて、手嶋さんの目をじっと見つめる。
そしたら手嶋さんは「その目青八木そっくり!」ってくしゃっと笑った。
…ちょっとだけ不服だけど、言わないでおこう。


「…最初から話したほうがきっとわかりやすいな」


それから手嶋さんはぽつぽつと話してくれた。

中学時代、戦績の奮わない彼は自分には才能が無い、凡人なのだと思い知って高校はロードをやるつもりは無かった事。
けど入学初日、正門坂をロードで必死に登るお兄ちゃんを見てつい声をかけて…話しているうちに同じスピリッツを感じて気付けばまた自転車部に入部していた事。
そして去年サポートとして行った夏のインターハイで強く焦りを感じる程にそれに憧れを抱いた。けれど当時の自分の実力では到底及ばない。


「それで、青八木が言ったんだ…『だったら、2にするか』ってさ。それがきっかけ。で、それからはオレが頭、青八木が脚になって今まで2人でやってきたんだ」
「そうだったんですね…」
「初めて青八木を表彰台に上げた時に確信したよ。2人でなら、凡人のオレらでもエリートを超えられるってさ。だからきっとあの1年達にだって…」


ぎゅっ、と手嶋さんが強く拳を握りしめたのを見逃さなかった。

自分の才能が無いと気が付いたと話してくれた時、今泉くんと同じレースに何度も出てたと話してくれた。常に彼は表彰台の一番上にいたって事も。

やっぱり…一年生の3人と手嶋さん達の雰囲気がピリピリしている理由は越えなきゃいけないライバルとして見ているから…なんだ。
2人にとって、あの3人はインターハイへ行くには確実に越えなきゃならない壁になる。どうやってメンバーを決めるのかはまだわからないけど、きっと年功序列なんかでは決めないだろう。実力で選ばれる。
だから…2人は彼らに先輩として接していないんだろう。
もし私も2人の立場だったら…きっと自分よりも実力が上の後輩に対して、ただ可愛い後輩として接することは出来ないと思う。


「ってな!大体こんな感じかな」
「ありがとうございます、話してくれて。なんか色々びっくりしちゃいました。手嶋さんがロード辞めようとしてた事とか、お兄ちゃんがその気持ちを変えちゃったりとか…」
「ははは!青八木にも感謝してるよ。あいつがいなかったら、きっとオレはこうしてまたロードに乗ってねぇだろうからさ」


手嶋さんがロードに乗っていなければ、2人の走りを見る事は出来なかった。
そうなれば、私も今自転車部どころか、総北にすら入学していなかったと思う。なんとなく選んだ高校で、なんとなくの毎日をすごしていたかもしれない。

マネージャーになる事に不安はもちろんあった。上手くサポートできるかな、とか、先輩と上手くやれるかな、とか…マネージャーになる事、お兄ちゃんはどう思うかな…とか。
けど、今はもうそんな不安もなく、毎日楽しくマネージャーとして部活に打ち込んでいる。マネージャーになる事を選んで本当に良かったと思える。
何より、自転車が好きだったって言う気持ちを思い出す事ができた。
そんなきっかけを与えてくれたお兄ちゃんと手嶋さんには、本当に感謝しているんだ。
手嶋さんがロードを辞めないでいてくれて、お兄ちゃんと一緒に走ってくれて、本当によかった。


「…本当にありがとうございます、手嶋さん」
「ん?何が?」
「私は手嶋さんにすっごい感謝してるって事です」
「…よくわかんねぇけど……どういたしまして…?」




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