「私の好きな物?」


そや、と頷くと三郷は「うーん」と唸りながら顔を上げた。

三郷と昼飯を一緒に食うようになってから、何日かが経った。相変わらず三郷は昼休みになると同時にあの花壇へ行って、ワイはすぐそこへ行かずに購買っちゅー名の戦地へと赴く。パン戦争に勝利してから戦利品を片手に三郷の待つ花壇へと行くと、三郷は毎回「待ってたよー」とデッカいジョウロを持ちながらニコニコして手を振って待っとってくれる。
…そんな三郷の事を、毎回「かわええ」なんて思ってまうのはぜっったいに内緒や。

しかしその三郷の口から出る言葉は、田所さん、田所さん、田所さん。オッサンの事ばっかりや!!
しょーじきウンザリやけど、ワイは優しいから聞いてやっとる。「へー、ほー、ふーん」なんてそっけない返事でも三郷は満足らしい。女心は複雑言うけど、どんだけ単純なんやコイツ。

そんな訳やから、三郷はあんまし自分の事は話してくれん。だからワイは今日は先回りして「三郷は何が好きなんや」と聞いてみたけど、この質問絶対アカンかったわ。どーせ「田所さん!」って返事が返ってくるやろ。


「それはやっぱり田所さんだよ」


ほら、思った通りや。キラキラの目ェでそう答えて、どんだけコイツの頭ん中にはオッサンがいんねん!オッサン一色やないかい!オッサン大好きなパーマ先輩と無口先輩ですらここまでやないやろ。多分あの人らも引くんちゃうやろか。


「ホンマ三郷はオッサンの事ばっかやな!それ以外にあらへんのんかい!」
「それ以外……うーん…」


三郷はまた顎に手ェ当てて空を見上げた。三郷は考える時上を向くクセでもあんのんか。少し時間をかけて考え込んだあと、三郷は「そうだなぁ」と視線をワイに戻した。


「…お花は好きかな」
「せやろな。好きやなかったら、ここの花壇の世話なんかしてへんもんな」
「好きだから育ててる…って訳でもないけどね」


どうゆう事や、と聞くとまた「んー」と三郷は考え出した。ワイはそんなに考えさせる事ばっかり言うとるやろか。


「入学したての頃、ここの花壇すごい荒れてたんだよ。枯れたお花はそのままだったし…何だか可哀想で」


今は綺麗な花を咲かせとる花壇やけど、そんな酷かったんか。よかったなあ、世話してくれるヤツが現れて。今は綺麗な花壇を見ながら、そんな事をついつい思ってまう。


「そんな余裕ないのに、なんだか可哀想になっちゃって…気が付いたら、先生にこの花壇使わせてほしいって頼んでたんだ」
「そか…嬉しいやろな、この花壇も。そんな状態やったのにこうしてキレーな花咲かせて」
「…ぷっ」
「ハァ!?ぷってなんや!何わろとんねん!笑うとこあらへんやろ!」


ワイが声を荒げると、三郷は更にあはははと笑いだした。ワイなんもおもろい事言うてへんのに、ホンマ失礼なやっちゃ。


「いや、だって…花壇が嬉しいって…!鳴子くんがそんな事言うなんて意外で…!あはは…!」
「だー!もー!お前ホンマ時々失礼やな!!もう嫌や!」


ぷい、と三郷から顔を背けると、あからさまに動揺しとる声が聞こえた。なんやと顔を向けるとちょいと突いたら泣くんちゃうかって顔で三郷ごこっちを見とった。


「ご…ごめん……こういう事、私いつもつい言っちゃって……」


心なしか三郷のおっきい目がうるうるしとる気がする。そんな顔されると、ワイなんもしてへんのにめっちゃ虐めとる気分になるやんけ……ホンマ、三郷とおると調子狂うわ。


「別に気にしてへんし、三郷が失礼なんは今に始まった事やないやろ」
「あっ、ひどいなあ!真剣に謝ってたのに…!」
「いつものお返しですぅー!三郷やってワイが真剣な事言うと笑うやろ!」
「うん、だって鳴子くんが顔に似合わない真剣な事言うの面白いし…」
「そゆとこ!お前ホンマそゆとこやで!!」


ワイがムキになって思わず立ち上がって言うと、三郷はまたゲラゲラと笑い出した。ホンマに失礼なやっちゃと思うけど…全く嫌ではない、むしろワイはこんな下らん事で笑い合えるんを気が付けば楽しいと思っとった。
…それに、こんな楽しそうに笑う三郷は、やっぱかわええと思う。まあ、絶対に絶っ対、本人には言わへんけどな!


「けど、ありがとう。私もここの花壇のお世話してるの楽しいし、綺麗って言ってくれて嬉しい」


また三郷はにこりと笑った。
…やっぱ絶対に言われへん、そのふわってした笑顔がかわええなんて…!!



それから、2日くらい後の事やった。

いつものように三郷は先に花壇へと向かって、ワイはパンの確保へ向かう。
パンも無事に確保して、三郷の待つ花壇へと向かった。けど、いつもなら聞こえるワイを呼ぶ声が聞こえへん。どないしたんやと足を速めると三郷の花壇の前にしゃがみ込んどる姿が見えた。ワイに気が付いておらんのかと思って三郷を呼ぼうとした……けど、アイツの様子がいつもと違う。なんや、なんかしょんぼりしとるような──


「な、なんやこれ!」


花壇に近付いて、ワイは思わず声を上げた。
…三郷がいつも一生懸命世話しとった、綺麗な花を咲かせとったその花壇は、無惨にぐちゃぐちゃになっとった。


「あ、鳴子くん…ごめんね、気が付かなかった」


いつもと違って三郷の声に覇気がない。当然ニコニコした笑顔も。


「んな事より、何があったんやこれ!」
「……」


三郷は花壇のポッキリと茎の折れた花達をじぃっと見つめたまま、何も言わへんかった。…ホンマになにがあったんや。昨日台風とかでもあればわかるけど、昨日はピーカン、ええ天気やった。

そんな時やった、近くから男2人のはしゃぐような声とポーンポーンてボールかなんかが弾む音が聞こえた。


「お前コントロール無さすぎだろ!ちゃんと蹴ろよ!」
「蹴ってるって!このボールが悪いんだよ!」
「ボールのせいにすんなよ!また土ん中突っ込ませる気かよ!」


……土、って。
しゃがんでもう一度花壇を見ると、土の真ん中に丸い跡があった。大きさも丁度アイツらが蹴っとるボール位や。察しのええワイはピンときた。この綺麗やった花壇がこないになったんはアイツらのせいや…て。


「なあ、アイツら、謝ったんか」
「え…?」
「三郷に、謝ったんか?花壇にボール突っ込ませてすんませんて」
「う、ううん…多分私がここの花壇の面倒見てるの、鳴子くんしか知らないし…」
「そか」


すっと立ち上がるワイに三郷は困惑したよな声で「鳴子くん…?」と呼んで見上げてきとるけど、ワイはそれに構わず能天気に遊ぶ男達の方へと脚を運んだ。
怒りが込み上げてきてしゃーない。ホンマに腹立つわ。人の大事にしとったモン壊しといて何も言わんとはしゃぐなんて。





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