「やっぱここにおったか」


昼休みになった途端、三郷は誰かに声をかける事もなく弁当の入っているであろう巾着を片手に教室から出て行った。すぐに追いかけたかったけど昼休みの購買は戦場や。昼休みなった途端ダッシュせんとあれよあれよと目当てのパンもおにぎりも無くなってまう。自転車乗りに空腹は天敵や、ワイの頭の中の天秤は少しもブレる事なく昼飯の確保に傾いた。その購買戦争に無事勝利したワイはようやく三郷を探しに出た。
探すちゅーても、いそうな場所の見当はつい取った。前に三郷に呼び出された校庭の外れの花壇。やっぱりそこにおって、おっきなジョウロで花壇に水をやってて、ワイが声かけると三郷はあんぐりと口開けて間抜けな顔をした。


「…鳴子くん。なんで?」
「何でて…一緒に飯でも食お思ただけや」
「え、何で?」
「さっきから何で何でやな!?ダチと飯食うのに理由がいるかい!!」
「……え?」


今、なんて。って鳩が豆鉄砲食らったような顔や。ワイの今の言葉のどこにそんな驚く要素があるんや、と思いつつも同じ言葉を繰り返せば今度はぱあっと顔をキラキラさせて嬉しそうな顔を見せた。


「私のこと、友達だと思ってくれてるんだ」
「まあな。オッサンの事が好きいうのは理解でけへんけど、三郷はええヤツやし」
「そこは理解してよ」
「そら無理や」


えー、なんて言いつつ三郷は楽しそうに笑うとる。

この間行った三郷のバイト先の姉ちゃんが言っとった。『家の事とかバイトで忙しくて友達と遊ぶ時間がない』…て。それで友達が離れて行ってしまうって。その離れて行ったやつはアホやな、とこの楽しそうな顔見とるとよう思う。男の趣味はどーかと思うけど、こんな些細な事でも楽しそうにする三郷といるとこっちまで楽しくなってくるっちゅーのに。

花壇に水やりを終えた三郷は片付けを済ませてから、「そこ座ろ」て側の年季の入ったベンチを指差して、2人で並んで腰掛ける。三郷は教室出る時持ってた巾着を開けて、ワイは焼きそばパンのラップを開けた。


「それにしてもパンの量すごいね!全部今食べるの?」
「せや。自転車は腹減るねん。部活に備えてちゃんと腹ごしらえしとかな、ガス欠なってまうからな」
「お姉ちゃんも言ってたな、自転車はお腹空くって」
「そういや三郷のねーちゃん、ロード乗ってる言ってたな」
「うん。今は大学生で神奈川の方に住んでるんだけどね」


ねーちゃんは高校時代からバイトしてコツコツ金貯めて、引っ越す前にやっと目当ての車種を買えたとか、最近は箱根の高校のイケメンの選手に夢中なんやとか、色々ニコニコしながらワイに楽しそうに話してくれた。


「箱根いうたら、今度のインターハイの開催地やないか」
「なんかそうらしいね。お姉ちゃんもその…ナントカ様?観に行くって喜んでたなあ……鳴子くんも出るんだよね?」
「おう!インターハイでも目立って目立って目立ちまくったる!」
「……田所先輩も出るんだよね!?」


ワイのことは無視かい!!んでまたオッサンの事かい!!
キラキラした目ェにちぃとムカッとしたけど、大人気あるワイはそこにいちいち食い付かず頷いた。「うわすごい顔してる」とかなんとか言われたけどそこも大人やから堪えた。


「観に行こうかな…インターハイ…!」
「おう、観に来たったらええ!インターハイでもワイがオッサンより目立ちまくるとこ観とけ!」
「田所先輩が活躍するとこ、しっかり見とかなきゃ!」
「オイコラ!ワイのこと無視すんなや!」


三郷はぷっと吹き出してケラケラ楽しそうに笑っとる。コイツ、面白がってわざとワイのこと無視しとったんか…!?ええ奴やけどこういう所はなんや揶揄われとるみたいでシャクや。
苛立ちを鎮めようと焼きそばパンをがぶっと一口口に入れた時、視界の端に三郷の弁当の中身がチラッと目に入った。
卵焼き、ハンバーグ、生野菜にタコさんウィンナーやらなんやら美味そうなおかずがそんなんで足りるんか?と言いたくなるような大きさの弁当箱を埋め尽くしとって、思わずじっと見てごくりと喉を鳴らしてしもうた。


「…どうしたの?」
「いやー別に?ただちょいーっと美味そな弁当やなーと思って」
「そう?ありがとう」


三郷は弁当箱を持ち上げて、ワイの目の前に出してきた。


「おかず、一ついる?」
「おおー!ホンマええ奴やな三郷は!んじゃこのタコさんもらうで!」


その弁当箱の中で一際目立っとる真っ赤なタコさんウインナーをつまみ上げて、ひょいっと口の中へ放り込む。よくあるウインナーかと思うたが案外味付けがしっかりしとって美味い。焼き加減もええ感じや。


「めっちゃ美味いな!これ三郷のオカンが作ったんか?」
「ううん、私が作ったの。…うち、お母さんいないから」


いつもニコニコ顔の三郷から、笑顔が消えた…というか、表情が消えた気がした。
しもた…地雷踏み抜いてしもうた。


「すまん…やな事聞いてもうたな…」
「ううん、謝らないでよ。鳴子くんがそんなシュンとしてるの、なんか笑っちゃう」


笑っちゃう、やなくてもう笑っとるやないか。なんやこっちは真面目に謝っとるのに、ホンマ地味に失礼なやっちゃ。…まあけど、そんな気にしてへんようで良かったわ。


「…ねえ、鳴子くん…」


笑うてたと思たら、今度はおずおずと言いにくそうにしとる。ホンマコロコロ表情の変わるヤツやな。けどそれがおもろいし、三郷のええとこやと思う。…こうわかりやすい女子の方がかわええしな。


「…明日もお昼、一緒に食べてくれる?」


恐る恐る何聞いてくるんやと思たら、なんやそんな事かいな。友達やったらそんなんビビらんで普通に聞いてきたらええのに。まあけど…仕方ないんかもしれへん。友達や思うてたヤツがどんどん離れていって、一緒にメシ食う相手がいなくなるっちゅーんは、想像しただけで寂しいし悲しい気持ちになるし、新しいダチが出来てもまた離れたらと思うと怖くもなる。


「当たり前やろ。もっとワイがオッサンより男前やってとこ、教えたらなあかんからな!」
「…田所さんより男前な人はいないと思うけど……ありがとう、鳴子くん」


ふわっと安心した顔で笑う三郷に、一瞬ドキッとしたのは内緒や。





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