土曜の今日は授業は無い、けど部活はある。自転車に専念できる。最高の日や。毎日これやったらええのに。
その部活も今日は午前のうちに終わって、みんなそれぞれ帰ってった。
いつもやったら小野田くんと…ついでにスカシ(除け者にしたら泣きそうやし)と昼飯でも食うて帰るんやけど、今日はスマン言うてまたにしてもろた。

今日ワイには、行くとこがあったからや。


商店街の外れの人通りの少ない道に、ポツンとある木造のちょいと古びた…こういうんをレトロ、言うんやったか?そんな感じの建物の軒先には、色んな色の花を咲かせる植木鉢やら草しか生えとらん植木鉢とか植物がたくさんある。
その植物達に寄り添うように置かれた黒板には、『今日の日替わりランチ』て書かれとる。ちなみに今日はレッドカレーらしい。ええな、赤いカレーか。正にワイのためにあるようなカレーや。
普段やったら自分から絶対入らんであろう、このイマドキの映えーいう言葉が似合いそなこのシャレオツカフェが、今日のワイの目的地。


「ここやな」


ぽつりと独り言呟いて、そのレトロな建物の扉に手をかけた。


「いらっしゃいませ!…あ!鳴子くん!」


建物の中に一歩足を踏み入れると、真っ先に視界に入ってきたのはエプロン姿の三郷やった。


「ほんとに来てくれたんだ!」


ぱあっと顔を明るくさせた三郷は嬉しそうに小走りでワイに駆け寄ってくる。…なんやこれ、むっちゃかわい……い、いや!見惚れてなんかあらへんし!


「まあな。サービスしてくれる言われたら、行くしかないやろ」
「ふふっ。それじゃあお席にご案内いたしますね」


どうぞー、と三郷に先導されてカウンターの席に通される。
そこの背の高い椅子に腰掛ける前にふと店ん中を見渡してみると、大きくて光がよう差し込む窓際には花の植木鉢、隅っこには背の高くて丸い観葉植物と店の外と同じく緑がたくさんある。明るい店内に合わせて飾られとる小物なんかも白とかうっすい緑や水色とか淡い色で統一されとる。
薄い色の木製のテーブルの席は大体埋まっとって、なかなか繁盛しとるようやった。若い姉ちゃんのグループ、親子連れ、カップル──いろんな客層がおるけど、流石に男1人はおらんで場違いちゃうかとほんのちょびっとだけ思た。
…やっぱせめて小野田くん連れてきたら良かったかもしれん。


なぜワイが普段やったら絶対通り過ぎてしまいそうなシャレオツーなカフェに来たかというと……三郷に誘われたからや。

三郷と田所のオッサンを会わせた日の、三郷を送り届けてる最中の事。


『…バイトしてるんだ、私』
『そうか、ほんならマネージャーは難しな』


部活とバイトて二足の草鞋は大変やもんな。マネージャーになったら案外ええ仕事してくれるんちゃうかと思たけど、しゃーないな。


『何のバイトしとるん?』
『喫茶店だよ。今年出来たばっかりのお店なんだけど、結構人気があって』
『人気あるっちゅー事は繁盛しとるんやな。そら忙しそうや』
『うん、おかげさまでね!…あ、そうだ!鳴子くんも今度食べにきてよ!』


お店のカレーおいしいんだよー、てほやほやした笑顔でそないな事言われて…行きません、なんていう奴がどこにおるんや。
しかも極め付けに──


『お友達来たらサービスしなきゃねってオーナー言ってたから、サービスもするよー』


なんて言われたら、もう行くしかないやろ。

そうして三郷にこのカフェの場所と店名を教えてもろて、時間もちょうどええしここまでロード飛ばしてきた訳や。



「あ…ごめん…この椅子、ちょっと高かったかな?」


案内されたカウンターの椅子に座らずに店内眺めとったら、三郷が申し訳なさそうに言うてきた。悪気ないんやろうけど腹立つな!?


「アホ!こん位の高さどうって事ないわ!!チビ扱いすな!大体三郷の方がワイよりちっさいやろ!」


見とけ、と言わんばかりに軽々とその背の高い椅子に余裕で座ってみせると、三郷は「ごめんごめん」なんて言うてケラケラ笑った。…なんや腹立つ笑顔やな。


「ご注文お決まりになりましたら、お呼び下さいねー」
「いや、もう決まっとるで」
「早いね。ではお伺いしまーす」
「カッカッカ!スプリントも注文決めんのもワイはスピードマンやからな!日替わり頼むで、大盛りでな!」
「はーい、かしこまりました!あ、お飲み物は?」


ランチには飲み物が付くらしい。お得やな。コーラで頼むでと三郷に告げると「はーい」と間延びした楽しそうな返事の後「少々お待ちくださいね」とカウンターの奥の厨房に「日替わり一つお願いします!」と声を張った後すぐに他のお客のテーブルへ行って空いとる皿を回収して回った。
なかなかテキパキ動くんやな…それにワイには間延びした緩い感じで接客しとったけど、他のお客にはきちんと丁寧な言葉で接客しとる。教室におる大人しい姿とはえらいギャップやな。


(なんかええな…ああやって一生懸命働いとるの)


ぼーっと三郷の動き回る姿を見とると、前から「お待たせいたしました」て三郷とは違う姉ちゃんの声がした。視線をそっちに戻すと、三郷と同じエプロンした多分30代くらいの姉ちゃんがおって、コト、て音を立ててコーラの注がれたグラスが置かれた。


「穂花ちゃんのお友達さん?」
「友達…ちゅうかクラスメイトやけど、まぁ、そです」
「そう…!ふふ、まさか穂花ちゃんがお友達連れてきてくれるなんて…」


姉ちゃんは随分嬉しそうやった。泣き出すんちゃうかって位に。
そんなに三郷が友達連れてくる事が珍しいんやろうか…女子なら喜んで来そうやけどな、このカフェ。
ワイが怪訝な顔しとったからか、姉ちゃんはぽつぽつと話し始めた。


「…穂花ちゃん、家族の為にこの仕事もだけど、家事とかも頑張っててね。お友達と遊ぶ時間もあんまり無いみたいだから…」


それでせっかく出来たお友達も離れていっちゃってね…、と目の前の姉ちゃんは悲しそうな視線を相変わらずテキパキ動く三郷に向けた。
…確かに、言われてみれば最近教室で三郷が他の女子と連んどるとこ、あんま見た事ないな。入学したての頃は何人かと話しとるの見たけど。
女子には色々あるんやなと思て特に気にせんかったけど…そういう事やったんか。


「遊べんからって離れるて…酷い話やな」
「本当にね…。穂花ちゃん、あんなにいい子なのに……。これからも穂花ちゃんと仲良くしてあげてくださいね」
「そんなんもちろんですわ。ワイは友達は大事にする男やさかい、任せたって下さい!」






BACK

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -