「ほれ、何してんねん。はよしぃや」
「え、えっとちょっと待ってね……心の準備が…!」


今日の部活終わり、ワイは朝約束したった通り田所のオッサンと三郷を会わせる為に部室前にオッサンを呼び止めて、部室の影に隠れて部活を見学しとった三郷を連れてこうとした。
朝から楽しみーだの、ドキドキするーだの、早く放課後にならないかなー、なんてニヤニヤニヤニヤしとったのにいざとなったら恥ずかしそーにもじもじしよって。ほんまよう分からんわ。そうやって暫くモタモタしとったら「用がねぇなら帰るぞ!」ってオッサンのイラついた声が聞こえてきて、さすがに三郷も焦ったらしい。ほっぺは真っ赤やけど意を決したような顔して「連れてって!」と軽くワイの制服の裾を掴んできた。その突然の三郷の行動にドキっとした……い、いやいや!気のせいや!部活の後でまだ心拍数落ち着いてへんのや、そうや!!


「ほ、ほな、行くで」
「うん…!」


ワイが歩き出すと顔赤くして裾を掴んだままの三郷も後から着いてくる。はたから見たら付き合いたての恥ずかしゅうてまだ手ェも繋げへんような初々しいカップルみたいに見えるんと──い、いや!せやから何考えとんねんワイ!

部室裏から数歩歩くと部室の扉の前に着いた。そこ腕組んでで待っとったオッサンはやっぱりイラついとった。


「オイ、おせぇぞ鳴子!」


そう眉間にふかーくシワ寄せて睨んできたオッサンにいつものように何か言い返したろ思て口を開こうとした、けどワイよりも先に後ろにおった三郷が「ごめんなさい!」って言いながら前に出た。掴まれてた服の裾もいつの間にか離されとる。


「鳴子くんが悪いんじゃないんです、私のせいなんです…!私がその、もたついてしまったので…」


だからごめんなさい!って三郷はもう一度焦ったようにぺこっと頭を下げた。
対して田所のオッサンは突然女子に頭下げられたからか、イラついた顔は一転して焦りの色を見せた。「あー」とか「いや」とか「その」とか図体に似合わん小さい声であたふたしとる姿に思わず笑いそうになるんをワイは必死に堪えた。ここで笑たら多分三郷に怒られる気ぃした。


「今日は、私が鳴子くんに頼んだんです。田所先輩に会わせて欲しいって…この前はありがとうございました」


あたふたしとったオッサンは「この前…?」って呟いてからなんか思い出したように「あ!」と声を上げた。花壇の肥料運ぶん手伝った時の事を思い出したらしいな。
それから三郷とオッサンはお互いに自己紹介しとったものの、その後三郷は顔真っ赤にしてわたわたテンパってもう何言うてんのかわからんかった。対してオッサンも女子の相手慣れとらんのがバレバレでいつもの態度のデカさはすっかり萎んどって、笑う通り越して引いたわ。


「あー…アレだ、その…三郷は鳴子とはどういう知り合いなんだ?」
「え、えっと…!ク、クラスメイトなんです…!田所先輩のお名前も、先輩が鳴子くんと喧嘩してるのを見かけて、それで知って…2人とも仲いいんですね!」
「あ!?」
「ハァ!?」


仲がいい、その言葉に思わずつい声を荒げてしもうたし最悪なことにオッサンと声が被った。それに三郷はビックリすることもなく「やっぱり仲良しですね!」なんてケラケラ笑うとる。


「ありえへんやろ、何言うとるんや!こんなデッカいオッサンと仲良くなんてしたないわーアホがうつるっちゅーねん」
「こっちこそオメーみてーな可愛くねぇ後輩と仲良くなんざしたくねェ!青八木と手嶋を少しは見習え!ていうかお前はもうアホだろ」
「ハァ!?アホで大人気ない肝のちっさいオッサンにアホ言われたないです!」
「よーし鳴子、オメェはそこでじっとしてろ。ブン殴ってやる!」


いつものように始まる大人気ない田所のオッサンとの言い争い。部活ん時やったら巻島さんとか金城さんの呆れ声とあわあわしとる小野田くんの情けない声が耳に入ってくるとこやけど、今はみんなおらん。代わりに三郷の面白そうに笑う声が聞こえて顔を向けると、三郷は若干目に涙まで浮かべて笑っとった。女子の楽しそな笑顔はワイも好きやけど今はなんや癪に障る。


「コラ三郷!何ゲラゲラわろとんねん!」
「あはは…ごめ…本当に面白くって…!なんだか2人ともお笑いのコンビみたいです」
「ありえへんやろ!」
「ありえねぇだろ!」


うわ、オッサンと声被ってもうた。オッサンもおんなじ事思ったのか目ェ細めてばっちぃモンでも見るような目で見てきよった。多分ワイも今同じような顔をオッサンに向けとる。
しかももっと最悪なことに一瞬想像してもうた……田所のオッサンと漫才コンビ組んだとこ。いやいやありえへん。オッサンと漫才コンビとかぜっったい無いわ!


「とにかく…今日はお時間ありがとうございました!これ、この前のお礼です」


三郷は自分のカバンの中から紙袋を取り出して、「受け取ってくれたら嬉しいです」って言いながらオッサンに渡した。


「お、おう…んな気にしなくていいのによ……けど、ありがとよ」
「いえ!それから……あの…こ、これからも先輩の練習、見に来てもいいですか…?」


三郷の顔がまた真っ赤になる。目線もあっちこっち泳いだりしてモジモジして…なんやいじらしい、完全に恋する女の顔や。これがオッサンに向けられてると思うとやっぱムショーにムカムカしてくるわ。しかもオッサンの顔もほんのりと赤うなっとる。
……ワイは一体何見せられてるんや。


「お、おう…!オレがこの豆粒を負かすところ、見に来いよ!」
「ハァ!?」
「は、はい!ありがとうございます!見に行きます!」
「オイコラ!ワイがオッサンを負かすんや!!」







「今日はありがとうね、鳴子くん」


オッサンと別れた後、ワイは三郷を途中まで送る為にロードを押して並んでる歩いとった。
「これ、お礼」って笑顔を向けながら、三郷はカバンからなんや細長いもんを手渡してきた。これは…自転車乗りには必須のパワーバーや。しかもちょいと高い、ええやつや。


「別に気にせんでええのに。…ま、くれるっちゅーならありがたく貰っとくわ」


おおきにって言うて受け取ると三郷はまた嬉しそうに笑うた。


「しっかし、そんなにオッサンの走り見たいんならマネージャーにでもなったらええんちゃうか」
「確かにマネージャーになったら近くで応援とか、お手伝いもできるしいいよねぇ。ロードにも興味あるし…」
「なんや、ロードに興味あるんか」


意外やった。三郷は運動とか興味なさそなタイプやと思っとったし、興味があるんはオッサンだけかと思っとったわ。


「うん。うちのお姉ちゃんが乗ってるんだ。ロードバイク」
「へー、ロード乗りの姉ちゃんおったんか。ほんなら、尚更ええやないか。案外マネージャー向いとる思うで」
「そうかなぁ…えへへ、ありがとう。けど、ちょっと無理かなあ…」


そう言いながら、三郷は眉毛をハの字にして笑うた。
オッサンが好きだったり、走り見たいとか…ロード興味あるのに何でや。なんか都合悪い事でもあるんやろか。三郷にそれを訊くと相変わらずハの字眉毛の笑顔のまま頷いた。


「…バイトしてるんだ、私」






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