今ワイは最高に気分が悪い。
昼休みまでは絶好調やった。それが一変して部活中の今はメッチャ気分悪い。

それもこれも全部三郷のせいや。アイツが「田所先輩が好き」とか「練習見たい」とかよりによってワイに言うてきたからや。
可愛いとは思っとったけど別に三郷に惚れとった訳でもない。けどモジモジしながら話がある言うて、人気のない場所に呼び出して、そんなん男なら誰だって告白や思うやろ。あの鈍感な小野田くんですらきっと思うで。
気に入らんかった。今朝の占いの通りになった事も、ワイに惚れとると思った三郷がホンマはオッサンに惚れとるっちゅー事も。こんな事で調子悪なるとか自分でもアホか思うとる、ガキかて思っとる。しかもインハイ近いっちゅーのに余計な事考えて。

けど……気に入らんもんは気に入らん!

しかもや……嫌や言うたのに、あろうことか三郷は部活へ向かうワイに着いてきて、いつもゴールライン代わりとして使うてる白線の近くにある植え込みの影から勝手に部活を見学しとる。いつも教室の窓際で本読んでたり大人しいイメージやったけど、意外と強引やな。教室でオッサンが好きだから練習見せて欲しいて言うんは恥ずかしいから嫌言うてたのに。女心はよー分からんわ。



「もう一回!オッサンもう一回や!!」
「またかよ!?これで7本目だぞ!いい加減諦めろ豆粒!」

いつもの平坦コースを田所のオッサンと競っとるけど全然抜けへん、勝てん。いつもやったらその……こんだけやれば1本は勝てるのに今日はアカン、メッチャ調子悪いわ。
けど今日はいつも以上にオッサンに負けたくなかった。その原因もわかっとる。
白線を割る寸前、チラッと植え込みからコソコソ覗いとる三郷を見るとオッサンを見て目ェキラッキラさせとった。いや完全にあれはハートマークや。恋する乙女の顔やった。
その顔にモヤモヤしてあんまエエ気分やなかった。だからどーしてもオッサン抜かして三郷がどんな顔するか見てみたかった。


けど、結局今日は田所のオッサンに一度も勝てんかった。





飯いっぱい食って、ウンコめっちゃ出して、めっちゃ寝たら次の日にはモヤモヤは消えとった。朝練でもオッサンとええ勝負出来た。…まぁあと一歩んとこで届かんかったけどな、放課後は見とけ絶対ブチ抜いたるわ!!

朝練終えて制服に着替えて、小野田くんとついでにスカシと廊下で別れて教室戻って席に座った。朝練の後に授業とかかったるいわー…体育ならまだともかく、一限目は数学やったっけ、ま何でもええわ、ごっつ眠たいし寝たろ。
机の上に腕を乗せて、ふあ、と込み上げてくる欠伸を我慢せずに豪快にかいたのとほぼ同時やった。

「おはよう、鳴子くん」

にこにこした顔の三郷が目の前に立っとった。三郷から話しかけて来たんはワイが記憶してる限りで2回目や。1回目は昨日の「話がある」言われた時。

「おはよーさん」

眠気を堪えながらなんとか挨拶を返した。昨日のモヤモヤした感じはもうあらへん、眠たい声以外はいつも通りに出来てたと思う。

「昨日はありがとう」
「何がや」
「練習見せてくれたでしょ?田所先輩かっこよかった!」

ピキ、頭ん中でそんな音がした気がした。ウンコと一緒に流してスッキリしたはずの昨日のモヤモヤとオッサンに勝てんかった悔しさがまた蘇ってくる。

「……何でオッサンなんや」

つい、口から出てもうた。この言い方やとまるでワイが三郷に惚れとるみたいやないか。勘違いさせてしまうかもしれん、と焦って三郷の顔を見てみるとあの恋する乙女の顔してモジモジしとった。正直かわええ、と思った。この顔が田所のオッサンに向けられとると思うとなんか腹立つわ。

「だって、男らしくて素敵じゃない?それにすごく優しいし…」
「ハァ!?あのオッサンが優しいやて?ありえへん、あの人メッチャ大人気ないで!」

毎日ワイのこと豆粒やなんやてからかって、3年で図体デカイクセにやる事いちいち小さくて大人気ない!…まあ、見た目だけやったらちょびーっと男らしいとは思うけど。っちゅーかオッサンの事語るならワイやなくてパーマ先輩と無口先輩の方が話合うやろ、ワイこれっぽっちも同意でけへんもん、あの2人なら100%同意してくれるはずや。そうや三郷にあの人ら紹介したろか。…いや、練習中オッサンを応援する声が増えるんもシャクやな、やっぱやめとこ。

「そもそも何でオッサンに惚れたん」
「そ、それ聞くの…?」

恥ずかしそうに顔赤くして視線があちこち泳いどる。男らしくて素敵ーとかは恥ずかしげもなく言えんのにそれは恥ずかしいんか…よう分からん。

「この前、花壇に使う肥料を運んでたんだけどね…それが結構重くて。そしたら偶然通りかかった田所先輩が運んでくれて……それがすごい男らしくて」

それで好きになっちゃった。て照れ臭そうに笑うた。
なんや…意外とええとこあるやんオッサン。けど三郷がオッサンに惚れた理由はありきたりやな、チョロすぎひんか?けど……本気で好きなんやな、田所のオッサンのこと。三郷のキラキラした目を見てればわかる。

「…そんなにオッサンの事好きなら、紹介くらいならしたってもええ…けど」

正直よう分からんけど気に入らん。けどここまで三郷のオッサンへの熱い想いを知って何もしてやらんのは可哀想やと思った。

「ほんと!?」

バン!て音がするくらい三郷はワイの机を叩いて前のめりになってきた。急に近なった距離に思わず心臓がドキッて跳ねた。い、いやいや!ドキドキなんてしてへんし!顔も熱くなったりしてへんし!!






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