カードU


「まさか運び屋の人とお茶会をするつもり?!」


「何の為に君をここに連れてきたと思っているんだね?ククッ…名前をどんな風に想像しているのやら」




「その様子だとかなり怖い奴だと思われているようですね」




突然背後から声をかけられた声。アリスは驚きながら振り返ると、にこにこと笑みを浮かべた男が立っていた。



「久しぶりだ、名前」


「お久しぶりです」


(この人が、名前...)



肩の辺りまで伸びた銀髪は所々外側に跳ねており、毛先には黒色が混ざっている。
顔の青白さは何度も会っている夢魔にも負けず劣らずで、健康的かといわれると、どちらかといえば病弱そうに見える。

想像していた人物像とはかなりかけ離れていた。



「名前、このお嬢さんは“余所者”のアリスだ」



“余所者”この世界では異世界から来た人間をこのように呼ぶらしい。アリスはあまりその呼び方は好きではなかった。なんだか自分だけこの世界から切り離されているような感覚になるからだ。

名前と呼ばれた男運び屋はアリスと目が合うとニッコリと笑って右手を差し出した。



「初めまして、“アリア”。俺は運び屋屋敷領主の名前といいます。名前と呼んで下さい」


「ええ。よろしく、名前」



アリスは差し出された手を握り返しながら、改めて彼の“顔”を確認した。



(顔が、ある....)



この世界では顔が認識できるものとそうでないものに分かれる。顔がはっきりと分かるのは『役持ち』といって何かしらの役職を持っており、それ以外の人間は『役なし』又は『顔なし』と呼ばれている。

つまり顔がはっきりしているということは彼も役持ちなのだろう。



「あなたも役持ちなの?」


「うーん…確かに俺は運び屋という役職がありますが、役持ちにはカウントされないんです」


「カウントされない?」


「そのへんは長くなるので、また今度お話しますよ、アリア」


「.....私の名前はアリアじゃなくて、アリスよ」



話をはぐらかされてしまったので、気になっていたことをつっこむと、



「はい。承知しています、アリア」


「………」



全然分かっていない。アリスは頭を抱えたくなる。



「.....お嬢さん。彼は少し人の名前を覚えるのが苦手でね。どうか大目に見てやってはくれないだろうか?」



ブラッドがアリスの心情を察してくれたようで、苦笑を浮かべながらそう言った。




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