カードT
【帽子屋屋敷】
「お茶会を開く」
そう言った彼の言葉には、昼間だというのにいつもの気だるさは見られなかった。むしろいきいきとしており、気持ち悪いくらいだ。
だがそんな男の言葉に対して、アリス=リデルは不満そうに眉をひそめた。
「お茶会って、二時間帯前もやったばかりじゃない」
「前のお茶会からもう二時間帯“も”たっているんだ、お嬢さん。それにもう少ししたら美味しい茶葉が届くというのに、飲まないわけにはいかないだろう?」
さも当然だとでも言うように言ってのけるのは、マフィア組織の帽子屋ファミリーのボス、ブラッド=デュプレ。二つ名を表しているといっても過言ではない、派手な帽子が特徴だ。生粋の紅茶狂で、ハートの城の女王ビバルディといい勝負。
「美味しい茶葉?」
「そうだとも。私のお気に入りの茶葉だ」
「それは…気になるわ」
「お嬢さんも一度飲んだら忘れられないだろう」
「ボス〜」
だるそうな声が外からブラッドを呼んでいた。この屋敷の使用人だ。
ぺこりと頭を下げながら部屋に入ってくる。
「何だ」
「名前様がいらしましたよ〜」
「ああ。…では行こうか、お嬢さん」
ブラッドの書斎を出て、廊下を歩きながらアリスは尋ねた。
「ねえ、ブラッド。名前さん…って言ったかしら?」
「名前は運び屋の人間だ」
アリスの聞きたかったことの答えを先に言われてしまった。
「運び屋…?あまりいい響きではないわね…」
運び屋といったら密輸品や盗品を密かに運搬するような人間をさしていうものだ。そのうえマフィアがいう運び屋だ。
(…どんな怖い人なのかしら…)
アリスはサングラスをかけた厳つい人間を想像して顔を歪めた。
それに気がついたブラッドが苦笑いをして、アリスの頭をポンポンと叩いた。
「安心しなさい。彼はこちらが何もしなければ何もしてこない」
「じゃあ機嫌なんか損ねたら何かはされるのかしら…?」
「大丈夫だ。滅多に機嫌なんて損ねない。それに“あいつ”がいるからな」
(あいつ…?)
運び屋の他にも客人が来るのだろうか?
そんなことを考えていると、庭に備え付けられた大きなティーテーブルが見えてきた。