御伽噺V


【???の狭間】



「随分と懐かしい昔話を読んでいるな」


「.....たまたま目に入っただけだ」



青年は持っていた本を元の場所に戻しながら、存在のない声に答えた。すると辺りに広がっていた、図書館のような空間は消え、闇が訪れる。

その一面真っ暗な闇の中で、青年は浮かんでいた。



「だがあの物語は所詮、偽りだらけの夢物語なことは、お前が一番知っていることだろう?」


「..........」



顔を上げると青年の目の前に、いつの間に現れたのか、銀髪の夢魔が浮かんでいた。いやでもその肌の白さが目につく。



「相変わらず忙しそうだな、領主様は。病院に行く暇もないのだろう」


病院、という単語を耳にし、夢魔の頬がひきつる。


「.....随分と私も嫌われたものだな」


「それで?わざわざ領主様がいらしたんだ。何か大事なご用件でも?」



皮肉めいた笑みを浮かべながら青年が尋ねれば、やれやれと夢魔は肩を竦めてみせた。



「引っ越しが完了した」



その言葉に青年が目を見開いた。だが数回瞬きを繰り返したあと、納得したように目を閉じた。


「この世界ならすぐに引っ越しがあるのもあり得ることか.....。
それで、次の国のはどこだ?」



その言葉を待っていたとでも言うように、夢魔は顔を輝かせ、両手を広げてみせる。



「私の国!クローバーの国だ!」




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