御伽噺T
【むかしむかし、それはそれは凶暴で、嫌なことがあるとすぐに怒ってしまう、荒くれものの一匹のウサギがいました。
怒りんぼうのウサギの周りからはだんだん友達がいなくなっていきました。
そしてついには、ひとりぼっちになってしまいました。
ウサギは悲しくなんてありませんでした。
でも、やっぱりちょっぴり寂しかったのです。
ある日ウサギの前に一人の人間がやってきました。
その子は『余所者』といって、違う世界からやって来た人間で、ウサギのことなんてちっとも怖がっている様子はありませんでした。
来る日も来る日も、二人はいつまでも遊んでいました。
そしてある時、余所者はウサギに『友達』になることを誓いました。ウサギも余所者と友達になることを誓いました。
でもこの時、本当は二人とも友達以上の『感情』が芽生えていました。
でも余所者は自分がこの世界から消えることが怖くて、ウサギは余所者を傷つけることが怖くて、結局二人はその『感情』を口に出すことは一度もありませんでした】