迷路V
【???の狭間】
「アリス....?」
青年が首を傾げれば、夢魔は「そう、アリス」と返した。夢魔が指をさすと、闇の中に淡い光が灯り、そこに水色のエプロンドレスの少女が映し出される。
青年は少し迷っていたようだが、すぐに思い出したらしい。
「ああ....帽子屋の女か」
「....もう少し可愛い言い方出来ないのか」
「無理だな。で、その人妻女がどうしたって?」
青年は少女から目を離さずに、夢魔に問いかける。
「いや。ただお前にもアリスを教えてやりたかっただけだ」
「残念だが俺は人妻は好みじゃない」
「私はどちらでも好みだ。って、違う!お前の女性の好みなど知るか!」
「冗談だ」
青年が手を叩けば、光は一瞬にして消え、少女の姿も消えた。
「.......ハートの国で迷いを振り切ってこなかったのか」
深刻な面持ちで夢魔に尋ねる。夢魔はゆっくりと顔を横に振った。
「振り切れなかった、が正しいだろうな」
「...中途半端な存在のままならば、さっさと帰してしまえ。苦しむのはあの女の方だ」
「まさか、自分の姿をアリスに重ねているのか?中途半端な存在のグリフォン?」
「そうだな」
青年―――グリフォンは事もなげに夢魔の言葉を肯定した。その返答は意外だったのか、夢魔は小さく隻眼を見開く。
「それより、俺をからかっている暇があったら、仕事をするか病院にでも行ったほうがいいぞ」
「うっ....!や、止め....ゴハッ!!」
「温室育ちの領主殿にこのような映像はまだ早かったか?」
盛大に吐血した夢魔に対して、グリフォンは仕返しとばかりに皮肉混じりの言葉を投げかけ、ニヤニヤと笑っている。
「こんなグロテスクな映像に耐えられる人間などいないだろう!」
グロテスクな映像を直接脳内に流し込まれ、夢魔は再び吐血しそうなのを、ハンカチで抑えた。
ガタガタ....ッ
突然、空間が音を立てながら歪み始めた。
グルグルと回りながら夢魔はグリフォンを見やる。グリフォンもどこか遠い目をしながら同じようにグルグルと回っていた。
「....最近は安定しないようだな」
「ああ...久しぶりに三月ウサギに会ってからさらに、だ。昔のように拒絶反応が出ている。最近までは落ち着いていたと思っていたんだが....」
「...強硬手段に出るか?」
「その必要はない」
きっぱりとグリフォンは言い切った。
「もうすぐ会合だろう。...今回は俺も参加する」
「そうか....」
夢魔は隻眼を細めて「楽しみにしているよ」と微笑んだ。