街U


【クローバーの塔】



(結局、ゆっくりと街を探索出来なかったですね....)



運び屋はクローバーの塔へ着いてから、がっくりと項垂れた。これから立て続けに仕事が入っているため、街の散策はまたの機会になりそうだ。

塔内は職員の人達が忙しなく動き回っている。やはり会合が近いせいだろうか。


会合。
それはクローバーの国で行われる、このクローバーの塔の領主、ナイトメア=ゴットシャルクが主催する催し物である。数日にわたり、名ばかりのグダクダな首脳会議を行う。そしてその首脳会議は期間中数回行われるのだ。

迎え入れる側も大変で、各領土から役持ちたちが集まるが、ルール上どれだけ嫌な相手だったとしても、丁重に客として対応しなければならない。だから下準備から忙しいことがほとんどだ。




(........でも....なぜ、網....?)



走り回っている何人かの職員は、少し大きめの口の網を手に持っている。ネズミかゴキブリ取りでもする気なのだろうか。



「あの、」


「名前さん!グレイ様に御用ですか?」



塔の職員がニッコリと笑って振り向いた。やはり彼の手には網が握られている。

グレイとはナイトメアの補佐官のグレイ=リングマークのことで、トカゲの異名を持つ。今回の仕事はそのグレイからの依頼だった。



「それもそうなんですが....その、何故網を持っているのか気になったので」


「ええっと....実は....」



いくらか声量を抑えて職員が囁いた。



「ナイトメア様がお逃げになられたので、捜索しているのです」



やはり、そうかと納得した。
ナイトメアは大の仕事と病院嫌いで、よく逃げ出しては職員やグレイを困らせている。真面目なグレイとは正反対の性格だ。



「客間にお通ししますので、しばらくお待ちいただいてもよろしいですか?」



運び屋は少し考えて、

「それでは、一つだけ頼み事が....」




[back]