お茶会T


「今回は同じ国だってブラッドに聞いてたのに、中々遊びに来ねぇから心配してたんだぞ?」


「すみません、エリオット。運び屋領土の地殻変動が酷かったんです」


抱きしめたままグルグルと回り続けて、やっと地面へ運び屋を下ろす。



「三回前の引っ越し以来だな」


「はい。久しぶりにエリオットに会えると思って、差し入れを沢山持ってきました。後で食べてください」


「名前の手作りか?!」


「はい」



再びグルグルと回し出しそうな勢いのエリオットを、ブラッドが制した。



「エリオット。久々の再会で嬉しいのは分かるが、いつまで経ってもお茶会が始められないさっさと座れ」


「悪ぃ!ブラッド!」



エリオットは本当に申し訳なさそうに謝ると、運び屋の隣へ腰掛ける。ブラッドが今日はそこでいいのかと尋ねれば、笑顔で何度も首を縦に振った。



「門番たちはどうした?」



賑やかな門番の二人が見えず、ブラッドが首を傾げる。



「呼びに行ったんだけどよ、門のとこだれも居なかったぜ?」


「またサボっているのね....」



帽子屋屋敷の双子門番、トゥーイドル=ディーとトゥーイドル=ダムはサボりがあり、勤務時間だというのによくいなくなっていることがあるのだ。



「まあいいだろうあいつらは帰ってきた時にでも」



ブラッドはメイドにティーキャニスターを渡した。紅茶係のメイドは気だるげながらもテキパキと動き始める。
アリスは少し前から感じていたことをブラッドに尋ねた。



「ねえブラッド。あのティーキャニスター、ハートが描いてあるじゃない?あなたの趣味?」


「いやいや、あれは名前が取ってきた、ハートの城の女王のものだ」


「....誤解を招く様な言い方はやめて下さい、ブレッドさん。まるで盗んできた様な言い方じゃないですか。あれはハートの城から頂いたものですよ。別な取引と引き換えに」


「それなら納得だわ。あなたってそんな仕事しているの?」


「ブレッドさんのような取引を重ねるのは特別なケースです。
....それにマフィアだけじゃなくて、ケーキ屋などの商品とか、手紙を配達することも仕事のうちですからね?」


「....いわば何でも運び屋ってことね」


「そういうことです」


「名前はホント働き者だよな!」



運び屋の頭を撫で回しながらエリオットが笑う。一方の運び屋は「エリオットの方が働き者ですよ」と言いながらも、少し照れくさそうだ。



ふと、アリスが違和感に気がつく。



「名前、私の名前は?」


「アリアです」


「じゃあ彼は?」


「ブレッドさんです」


「じゃあそこの彼は?」


「エリオットです」


「...あなた、エリオットの名前は完璧に言えるのね」


「当たり前ですよ。エリオット=マーチ。大事な方ですからね」



話が一通り終わったところで菓子と紅茶が並べられる。いい香りが広がった。




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