カードV
「さて、ではそろそろお茶会にしようじゃないか。その前に取引を済ませよう」
ブラッドのその言葉に、メイドたちがアリスと運び屋を席へと移動させる。
「それで?私の頼んでいたモノは手に入れたのか?」
「ええ、もちろん。遅れてしまい申し訳ありません」
運び屋がコートの中から、一枚のトランプを取り出した。それをメイドを通しアリスへ渡す。
「私?」
「お嬢さん、それには何が描いてある?」
ブラッドが愉しげに尋ねる。
トランプをひっくり返すと一枚の絵が描いてあった。
「…白磁の…ティーキャニスター?」
「お見事。ではお嬢さん、次の問題だ。これからこのティーキャニスターを取り出したいのだが、君ならどうする?」
「取り出す?!無理よ、そんなこと。これは絵よ?」
「残念。それは不正解だ」
ブラッドはアリスからトランプを受け取ると、パチン!と指で弾く。
するとトランプの中から絵に描かれていたものと全く同じ、ハートがデザインされたティーキャニスターが出てきたのだ。
「確かに、受け取った」
「凄い....どんな仕掛けになってるの?」
「仕掛けは俺もよく分かりませんが....取引の内容と相手が違うと取り出せない仕組みになっているんです」
「私が頼んだモノでなければ、私は取り出すことは出来ない。つまり名前は偽物を私に渡したことになる。そうなればお互いの商談は無かった事になり....」
「そんな危険なことにならないように気をつけてますが」
まだ死にたくありませんから。
ブラッドの言葉を遮って、言葉の割にはのんびりとした口調で運び屋は言った。
「それで、今回の報酬はこれでどうだ?」
「ん....?前払いで依頼金は貰っていますよ?」
「それは依頼金であって、これは私個人のお前への報酬だ」
ブラッドが指示すると、使用人が大きめの木箱を運び屋に差し出す。アリスがひょいと覗き込むと、三本ほどワインが並んでいた。
「シャトー・ラトゥールだ。お前は前に好きだと言っていただろう?」
「はい。....いいんですか?頂いても」
「構わない。運び屋は優秀な取引先だからな」
「ありがとうございます。これからも御贔屓に」
ニコッと微笑み、ティーキャニスターが描かれていたトランプを木箱に押し当てる。すると一瞬にして木箱は目の前から消えた。
「....まるで手品ね」
「楽しいでしょう?」
運び屋は木箱が新たに描かれたトランプを見せながら笑った。
するとドドドド!と音を立てながら屋敷から走ってくる1つの影が見えた。
オレンジ色の長い耳を天に伸ばし、目をキラキラと目を輝かせながらこちらに走ってきている彼は、自分をブラッドの犬と自称する、この屋敷のNo.2のエリオット=マーチだ。
運び屋も彼を見つけたのか、席を立つと、エリオットに向かって真っ直ぐ走っていった。
「名前!!」
「エリオット!」
二人はお互いに駆け寄り、力いっぱい抱きあった。