風に思いを馳せて

 あの日は、随分と風が強かった。新造船の試運転は最終的に決行されてしまい、何人もの人が命を落とした中、運良く諸葛誕だけが岸に流れ着き、助かった。だから、風が強い日には助からなかった者たちに、諸葛誕は思いを馳せてしまう。
 随分と悲しそうな顔ですねと、目の前で彼女が笑う。私は風の強い日が好きなんですと言いながら、コロコロと笑っている。今の諸葛誕にとって、彼女の言動は少し無神経で不愉快にも思えて仕方がない。眉間の皺をより深くした諸葛誕に、彼女が笑って話しかけた。
 だって、こういう日は死んだ人達が私達へ会いに来てくれているんですよ。だから、生きている私達が幸せにして、彼らに心配をかけないようにと、元気を出さなきゃいけないなと、思えるんです。
 寂しそうに彼女が笑う。意外な言葉に、諸葛誕の心がざわめく。強く吹きすさんでいた風が、少しだけ綻んだ。


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