弟子になりたい!

 強そうにして押し返す。弱そうにして引き返す。とにもかくにも、手の内を悟らせない。これは、他ならない満寵さん本人が言っていたことだ。その後、古い軍略本を両手いっぱいに抱えて壁にぶつかってはいたが、とにかく満寵さん本人が語っていた戦術なのだ。そして、きっとこれはバレンタインにも応用が利く。私の直感がそう告げているから、間違いない。
「満寵さん、チョコです! 真心を込めて作りました!」
 数名の女子の囲いを切り抜け、押し込む。とにかく力強く、押し込む。顔は必死に満面の笑顔、周辺の女子は私へ明らかに敵視の視線を向ける中、私は笑顔を崩さない。
「それじゃ、また!」
 すこし、しおらしい声に変える。急いでその場を離れる。弱そうにして、引き返す。満寵さんが唱えていた軍略は、きっとこういうことだと思う。私なりの解釈でしか、ないけれど。
 風紀委員に怒られながら、廊下をダッシュ。校舎裏につく頃には、心臓が激しくダンスを踊っていた。
「て、手の内を……悟らせない」
 嘘だ。伝えられなかっただけだ。好きだって、大好きだって、言えなかった。大好きな満寵さんが諳んじていた戦術にかこつけて、無理やりチョコだけ渡して逃げた。
「それは少し解釈が違うかな。君も興味があるなら、実際に自分で読んでみるといい」
 突然、隣から満寵さんの声がした。
「小さな声で呟いていたから気づいたよ、押し返す、引き返す、手の内を悟らせない……いや、手の内に関しては、少し大きな声だったけどね」
 顔が赤くなる。なぜこの場所が分かったのだろう?
「この場所が分かったのか不思議なのかい? それはね……」
 満寵さんがカバンから本を出す。いつも読んでいそうな戦略本だ。とりあえず、戦略仲間としては認めてもらえたのかな?


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