お互いに効くお薬
「お薬ですよ」
にっこり笑ってホットココアを差し出すと、郭淮さんは不思議そうな顔をする。当たり前だ。偶然オロチ世界に飛ばされた時に粉ココアを持っていた私ならともかく、三国時代から来た郭淮さんがココアやチョコレートを知っているはずがない。盃に注がれているとはいえ、泥のような色をした奇怪な液体にしか見えないだろう。
「私の居た時代では、とても体にいいと評判の飲み物なんですよ」
決して嘘はついていない。そして、話している間にも郭淮さんは細かく咳をしていた。普段は穏やかな顔をした郭淮さんは、少し怪訝そうにこちらを見る。仕方がないので、ココアを一口私が飲む。
「甘くておいしいですよ」
郭淮さんが目を丸くして、驚く。突然奇妙な泥水を目の前の人間が飲んだのだ、仕方がない。だがそれで安心したらしく、ゆっくりココアを口に運び始め、一口二口とのどを鳴らす。そして、柔らかく穏やかな笑顔を浮かべた。
「確かに、心まで穏やかになりそうな甘い飲み物ですね」
私がこの世界に飛ばされてからの日数で言えばバレンタイン、そして憧れの郭淮さんとの間接キス。思わず頬を赤くしながらも、わたしまで穏やかな気持ちになってしまった。22/40 ＊prevnext＃
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