恋は性欲

 スマートフォンを手に取り、掲げ、アドレス帳から彼女の名前を確認する。ベッドの上で横たわりながらスマートフォンを睨む諸葛誕の表情は、眉間に深いシワが刻まれており、あいも変わらず険しいままだ。顔写真で登録をしたいと伝え、撮らせてもらった彼女の写真をどれだけ眺めても、諸葛誕の表情は相変わらず堅い。スマートフォンの中から彼女は少しぎこちない笑顔で諸葛誕を見つめている。嫌がっている気配こそないがどこか不自然なその笑顔は、返って彼女らしさに溢れていた。そんなありふれた彼女の笑顔が、諸葛誕の握ったスマートフォンから、諸葛誕へと向けられている。
『男は恋と性欲を勘違いして、ただの性欲の対象に恋をしていると誤解する』
 どこかで聞いた話を思い出してしまい、諸葛誕が目を瞑る。小さくため息をついて、スマートフォンをスリープモードにする。この話を聞いてから、諸葛誕は自らの思いに自信を持てずにいた。
 呟くように、囁くように、誰にも聞こえないような声で彼女の名を呼び、再度強く、目を瞑る。最後に会った時に聞いた、彼女の声を、自然な笑顔を思い出す。この胸の痛みが、もし恋ではなく性欲なのだとしたら。諸葛誕にとってとても恐ろしい考えが頭を過り、思わず胸が締め付けられてしまう。
 雑念を振り払おうと、さらに強く目を閉じ首を振る。彼女を汚したくない、性欲などという醜い欲望を大切な彼女にぶつけたくない。そう思いながら、諸葛誕は何度も首を振る。出会ったばかりの頃、そして付き合い始めた頃、そして今でも感じるときめきは、全く色褪せてないはずだというのに。なのに今は、この変わらないときめきも、ただの性欲なのではないかと考えてしまう。疑ってしまう。彼女の笑顔を守りたいという気持ちに偽りはないのに、諸葛誕は自分自身の抱く感情が疑わしくて仕方がなかった。これは美しい言葉で綴られる愛や恋などではなく、人を傷つける事すらあるような、どす黒い性欲なのではないかと怯えてしまっていた。会いたいと思った。また声を聞きたいと思った。笑いかけて欲しいと思った。だが、もしこの感情が性欲なのだったら、ただ性欲を満たしたい為だけに会いたくて、声を聞きたくて、笑いかけて欲しいのだろうか。
「……っ!」
 スマートフォンを傍らに置き、そっと手を跨ぐらに這わせる。これだけ彼女の事を考えながらも、欲望が現れやすいここは全く反応していないではないかと、自らに言い聞かせる。ゆったりと指先で、服の上から撫であげても、ピクリとも動かないどころか無理やり性的な刺激を与えられているがゆえの違和感しかない。
「だい、じょうぶ……だ」
 自らに言い聞かせながら、強く閉じた瞼の裏に彼女の姿を思い浮かべる。再び、小さな声で名を呼ぶ。
 会いたい。声が聞きたい。笑顔が見たい。笑いかけて欲しい。
「ああ、愛している。きっと、愛しているとも」


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