夏の味覚

 黒い液体がシュワシュワと音を立てる。ペットボトルについた水滴で、中に入っている液体の冷たさが一目で伝わってくる。暑い外から帰ってきたばかりの白露には、目にも音にも涼しげで、抗いがたい誘惑であった。
 喉を鳴らして炭酸を流し込む。普段から飲み慣れた歴史ある味にとても良く似た、だがどこか人工的な甘みが喉を降りていく。
「……やっぱり、ゼロカロリーだとちょっと違うなぁ」
 小さく息を吐く。毎日飲み慣れたジャンクな味が愛おしい。だが、白露が嬉しげにそれを飲めば飲むほど、諸葛誕が眉をひそめてしまう事を、白露は身に沁みてわかっている。だからこそ、この人工的で歪さがある類似品で我慢しているのだ。
「あー、でもやっぱしおいしー! 冷たいわぁ」
 幸せそうに空を仰ぎ見る。冷たい部屋とドリンクで汗が引く感覚に、喜びでうち震える。感じ入り、穏やかなため息をついて正面を見ると、いつの間に帰ってきたのか諸葛誕がこちらを見ていた。
「またあなたは……そんな体に悪いものを!」
「きょ、今日は特保のゼロカロリーのやつだもん! カロリーだけじゃなくて糖質もゼロだし、食物繊維まで入ってるんだから!」
 白露の弁明を聞いても、諸葛誕の表情は緩まない。ムスッとした顔のまま手を洗い、冷蔵庫を開け、トマトを取り出した。
「なら、せめて一緒に夏野菜を食べてください。そもそもあなたは野菜をもっと食べるべきです」
 丁寧にトマトを洗い、白露に差し出す。そして今度は白露が眉をひそめる。決して、白露はトマトが嫌いなわけではない。だが、少なくとも炭酸飲料に合うとは思えない。
「さぁ、早く」
 仕方なく、白露は諸葛誕からトマトを受け取る。口を開けて、洗いたてのトマトにかぶりつく。人工甘味料の甘さと炭酸のさわやかさで満たされていた口内に、トマトの青臭く土臭い甘みが広がる。
「……不味くは、ないんだけどさぁ」
 諸葛誕が小さく笑い、白露の頭をくしゃくしゃと撫でる。白露は鬱陶しそうに目をつぶりながらも、次第に口元が緩んでいった。


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