敵わないから

 ぼんやりとした表情で、白露はベッドに横たわったまま、天井を見つめている。気だるそうなため息をついては、疲れたように寝返りを打つ。特に用事のない休日だからと、布団で惰眠を貪っている。元々、だらだら過ごす予定の一日だったから構わないと言えば構わない。だが、全身に残る倦怠感に、腰に残る筋肉痛、体の随所に残る刺すような痛みは、休日の予定にないものだった。
 翌日は予定がない。昨夜、白露がそう伝えた時に、諸葛誕は無邪気な子供のように喜んでいた。今の白露には、あの時の諸葛誕が浮かべた爽やかな笑顔が恨めしくも、腹立たしくも思えてくる。昨夜、あれだけ激しく時間をかけて白露を抱いておきながら、諸葛誕は寝過ごす事すらなくいつもの時間に起きて何事もなかったかのように仕事へ向かったのだから。
「あの有り余る体力は、一体なんなの……」
 そろそろベッドから出て、何か口にしようか。そう思い、上半身を起こした白露の体に再び痛みが走る。思わず声が出る。諸葛誕はいつもと変わらない様子で、いつもと変わらない早朝に起床し、いつもと同じ寝起きのストレッチをこなしていたというのに。基礎体力に差があると言えばそれまでなのだろうが、あまりの差に白露は自分が情けなくなってきた。
「せめて、柔軟体操くらいは毎日しようかな」
 体を支え、起こし、筋肉を伸ばし、その都度、悲鳴をあげながら。白露はゆったりした動きで、やっとベッドを離れた。時を同じくして、玄関から鍵を開ける音が響いて、扉が開く。故意ではなかったとは言え、白露の体をここまで痛め付けた張本人である諸葛誕が、満面の笑顔で現れた。
「ただいま、白露殿……なんだ、昼寝でもしていたのか? もう夕方だが」
 寝間着姿で気だるそうに伸びをしている白露を見て、諸葛誕は寝起きと判断したようだ。実際、先程までベッドで横になっていた事は間違いない。
「昼寝、昼寝ねぇ。違いますけど?」
 諸葛誕は、声色からか表情からか、白露の機嫌が悪いことを察したらしい。先程までの笑顔は消え去り、難しそうな顔をして待ち、続く白露の言葉に耳を傾けた。

 昨日のはしゃぐ様と同じく、事情を聞き終えて落ち込む様も、まるで子供のようだった。諸葛誕の純粋さを示すような様子に、白露は体だけではなく心も痛んでくる。
「す、すまなかった。まさか、その、こんな時間まで動けないほどに、無茶をさせていたとは。これからは、その……あまり、激しくしないようにする」
 謝りながらも、昨夜の事を思い出しているのだろう。諸葛誕の声は妙に上擦っており、頬も徐々に紅潮していく。実直とも言える言葉とともに、昨夜どれだけ諸葛誕が満ち足りたのかを隠しきれない照れ具合に、思わず白露も釣られて昨夜を思い出し、諸葛誕を愛している気持ちを思い起こし、頬を赤く染めていく。
「べ、別に、そこまで怒ってないし。まぁ、これからは、その……もう少し、優しくしてくれれば、いいから」
 あーあ、やっぱり公休君には敵わないなぁ。白露の言葉に思わず顔をあげ、笑顔になった諸葛誕に聞こえぬように、白露が小さく呟いた。


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