繰り返す夜

「何かご希望があれば、いつでも仰って下さいませ。それでは私は、下がらせて頂きますね。お休みなさいませ、諸葛誕将軍」
 頼まれた仕事を終えた旨だけを簡素に伝えて、彼女が部屋を出てしまう。自らの屋敷に勤める一人の女官へ、毎夜決まって褥の準備を言いつけている。言葉にしてしまえばそれだけの事で、端から見ても不自然な点は何一つもないはずで。
 毎夜のように一言だけ礼を告げると、廊下に消える彼女の背を眺めるのも毎夜の事で、私の胸に悔恨の念が残る事もいつもと変わらない。毎晩、今夜こそ気持ちを伝えようと強く思っては、彼女の背が廊下の奥へ消える様を眺めて後悔する。あの背を抱きしめ引き留められたとしても、また違った慚愧が生まれるだけではないだろうかと。
 喉が枯れたように声も出せず、変わりとばかりに半歩だけ脚が前に出る。昨晩までとは正しく半歩だけの差ではあるが、初めて彼女の背中を追おうとした自分の行いに我ながら驚いてしまう。

 暗闇から足音が響き、足音の主が困った顔で再び現れた。
「私は、いつでも、何でも仰って下さいと、毎夜のように言っていますのに。一体同じ事を何度言わせ、幾晩の間待たせるおつもりなのですか」


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