許しませんから

 戦場に身を置けば、怪我をする時がある事も重々に承知している。それは前線に出たこともない星雨でもわかる。それでも、矢傷を負って戦場から戻り、心配し屋敷まで送ってくれた部下達にまで、対した傷ではないと微笑んで話す諸葛誕を見た時に、星雨はどうしても一点だけ、怒らずにはいられなかった。確かに、命に関わる傷ではないようだ。諸葛誕が庇わなければ、その部下はより深い傷を、致命傷を負ったのかもしれない。それでも、星雨は許せなかった。
「……もし私が同じ傷を負ったら、公休様は同じように対した傷ではないと言えますか、今のように笑えますか?」
 帰宅した諸葛誕を向かえた星雨は、落ち着いた口調で話しながらも、言葉と共に大粒の涙をこぼして、問いただす。
「私は、公休様が多くの人達を思い、尽くし、優しくされるお姿を尊いと思います。素晴らしいと信じています。それでも、その一分でも、一厘だけでも……ご自身を大切にしても、良いのではないのでしょうか。公休様を大切に思う者がどれだけ悲しむかを、公休様が傷ついて悲しむ者がいる事を、どうして考えて下さらないのですか……」

 ついに声も出なくなった星雨の嗚咽と共に、重い空気が漂う。だが涙と共に空気をも払うように星雨は大きく、大袈裟に首を振り、諸葛誕を睨んで詰まりながらも言葉を繋げようとする。再び前を見つめる表情には、既に普段の気丈さが戻っていた。
「もう、今日という今日は許しませんから! お食事からからお召し物まで、その傷が癒えるまで公休様のお好きなものしか選ばせません。今までの分も、公休様を幸せにしたい者の気持ちを叶えさせて貰いますからね!」


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