僕と主人の結婚初夜

 恍惚とした表情で羨望の眼差しを目の前へ投げ掛けながら、諸葛誕が跪いている。宮城内で皇帝陛下を相手に向けられていても違和感のないような最大限の敬意が、街外れの小さな隠れ処の中で、うら若い女性に対して投げ掛けられていた。
 貴女に、私の全てを捧げたい!
 どうか、貴女の僕にして欲しい!
 心の底から幸せそうな陶酔の眼差しと共にそう述べた諸葛誕の言を、疑っているわけではない。ただ、婚礼の儀を終えたばかりの二人きりの夜に、彼女が自らの夫となる相手へ求めているのは、優しい狗の忠誠ではなく獰猛な狗の肉欲なのだと、良くも悪くも堅物な諸葛誕へ円滑に伝える術を探していた。そして、気持ちを伝える術を探していた彼女の心に、魔が差した。
「……では、どうか聞かせて下さいませ。公休様と私がこうして結ばれる夜を、公休様は想像した事が……想像しながら、自らを慰められた事があるのでしょうか? もしあるのならば、詳細に聞かせて欲しいのです。想像の中で、私はどのような表情で愛を囁いて、どこへどのように触れて、公休様を悦ばせていたのか。さぁ、分かりやすく寝台の上で、身振りを添えて教えて下さいませんか? 私は椅子にかけて公休様の様子を余す所なく見ていますから、どうか公休様を悦ばせる為の手管を、私に教えて下さいませ」
「え? ……それ、は……その。元来、そのような事は、本人に聞かせるような……口に出来るような内容ではなく。だ、だからこそ、想像で」
「……私の僕であると、私に全てを捧げたいと、あれだけ真摯におっしゃったのに。想像のお話すら、貴方自身の欲求すら、私に捧げては下さらないのですか」
 純粋に想像の内容を聞きたかっただけだと言えば、嘘になるだろう。だが、気にならないとも言い切れない。諸葛誕が自ら生み出し夢想の中で情を通わせた彼女の写し身は、本物の彼女以上に諸葛誕の事を知り、今の彼女では敵わぬ程に悦ばせたに違いない。そう考え、もう一人の彼女自身に嫉妬してしまった彼女を、一体誰が責められようか。
 穏やかに微笑みながらも捕食者の笑みを口許に浮かべ、椅子から立ち上がり彼女が手を差し出す。
「お一人が嫌だと言うのなら……私はこの手でどのように公休様へ触れていたのか、あちらの寝台の上で、ゆっくり一晩かけて、詳しく教えて下さい……ね?」


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