溺れるのは水だけじゃない

 裾を持ち上げ靴を脱ぐと、晩夏の風が優しく脚を撫で上げる。少し前に比べれば涼しいが、それでも肌はじわりと汗ばみ湖畔の誘惑は耐え難い。女性が水辺に脚をさらすなど、あの厳しい諸葛誕殿に見られては怒られるに違いないが、輝く水面の誘惑には敵わない。
 まだ眩しい日射しを受けながらも水の中は冷たく、思わず脚を動かし飛沫を上げる。夏も悪くないなど浮かれる私の身は突然浮いて、瞬く間に冷たい水から離された。
 ほんの一瞬の出来事だった。私は湖畔から引き離され、抱き締められ、名を呼ばれ、泣かれている。
「……なぜ、泣いているのですか?」
 諸葛誕殿だった。驚く私など意に介さず、青ざめた顔で、まるで死人でも見るかのように。
「……溺れていたわけでは、ないのだな?」
 怒られると思っていたのに。私はただ脚を水に浸していただけだと説明しても、諸葛誕殿は嬉しそうに喜ぶ。勝手に湖畔へ近付いた事や、靴を脱ぎ服の裾をめくり上げるはしたない行いに触れず、ただ私が無事だった事を嬉しそうに微笑んでいる。
 どうか、泣かないで下さい。優しくしないで下さい。私が貴方に溺れてしまいます。


13/40

*prevnext#
Back to Contents
しおりを挟む



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -