校則通りに

 初めてだった。顔を知っている程度の、それほど親しくない相手からの手作りは重いだろうと市販のチョコにした。義理だと思われても悲しいから、高校生にしては少し背伸びをしたブランドを選んだ。あまり長い手紙も読んでもらえないかと、私が好きになってしまった理由だけを書いた。
 放課後に生徒会室へ行き、生徒会長の司馬師先輩へチョコを渡しに来た大勢の女生徒達から離れ、風紀委員長の諸葛誕先輩へ差し出すと、少し戸惑った表情をしながら手を差し出してくれる。頑張って選んだ甲斐があったのだと、ここ数日の不安も意味があったのだと安心してしまった。
「学業に関係のない物を学校へ持ち込むことは校則で禁止されている」
 もちろん知っていた。その校則も、諸葛誕先輩の融通が全く効かない生真面目さも。正直、この反応も予想していたうちの1つだ。だけれども、私が想像していた以上に、私がこの反応に落ち込む事は予想外だった。
「もし生徒間で学業と関係のないやり取りを行いたい時は、お互いの同意の元で私的に待ち合わせを行う事だ。放課後の寄り道も禁止されている為、放課後に帰宅し私服に着替えた後に。または休日に」
 落ち込んでいた私に、予想外の追い討ちがかけられる。諸葛誕先輩は差し出した手で私のチョコを差し戻し、鞄から手帳を取り出した。
「そちらの都合が合う日があれば良いのだが……もしどうしても急ぐのであれば、今日なら帰宅後に学院最寄り駅内の書店へ行く予定だが。そういえば、名は?」
 予想外の言葉が次々と投げ掛けられる。チョコを受け取ってもらえなかったのに、なぜ合う約束が出来るのか。なぜ私は名前を聞かれているのか。混乱している私には、すぐに飲み込むことが出来なかった。
「本来、学業に必要のない物が持ち込まれた場合は風紀委員会で預り、放課後に返却している。だが今は放課後だ、注意と共にその場で返すしかない。それに、校内での受け渡しはできないが、帰宅後の生徒の個人的な行動は余程の問題行動でもない限り、我々風紀委員が口出しする権利はない……。その、もちろん、私がこのような男だと知らなかったと言うのなら、ただ黙って帰る事を、止めたりはしないが……」
 知っていました。予想以上ではありましたが、他人に嫌われようと貫く愚直な生真面目さに堅物さ、なのについ支えたくなるような自信のなさ。本音で言えば、放課後に友人達と制服でカフェに行くような私からすれば、一度帰って着替えてから学院最寄り駅になんて面倒でしかありません。でも私は、名前も知らない異性の後輩との待ち合わせを取り付けようとしながらもやましさなど感じさせない、諸葛誕先輩のそういう所に一目惚れしてしまっているのですから。もう、今日はどの服を着ようか、メイクは薄めにしようとか、このチョコと手紙を受け取ってくれた時の反応はどうなのか、なんて事で頭が一杯になってしまってます。


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