本当に綺麗な本当の貴方

 驚いた顔で私を見下ろす国義さんは、体中から生えた謎の突起でいつもより一回りも大きく、額からは角が生え、髪は全て綺麗な銀とも青ともつかない色になっていました。でも、その瞳の寂しそうな輝きといい、どこか辛そうな表情といい、私の大好きな国義さんに間違いないという確信しかありません。
 いつもの白い手袋をした手とはまた違う、不思議な光沢で白く輝く手の平を私に向けて、国義さんは私に何かを呟きました。何故泣き声が聞こえないのか不安になる程の、辛そうな表情で。きっと、私に近づかないように、ここから逃げるように、と言っているとは思いましたが……私はそれを無視して歩み寄っていました。
 
 戸惑った顔で立つ国義さんの顔へと、一生懸命に背伸びをして手を伸ばします。
 「国義さんは、こんな角があったんだね。凄く綺麗だね」
 何か意外だったのでしょうか。国義さんは脱力するように手を下げ、棒立ちになり、困った顔で何かを呟きながら頭を振っています。何故国義さんの声が聞こえないのか、私にはわかりません。なのに、とても苦しんでいるであろう事だけはわかりました。
 「いつもより背が大きいね、手が届かないや。普段なら、背伸びをすれば顔に手が届くのに……」
 私は必死に背伸びをして、国義さんの顔に、髪に、角に触れようとしていました。すると突然、国義さんは私の脇を掴み持ち上げました。まるで小さな子供がぬいぐるみを持ち上げ、見つめ合うようなしぐさです。
 
 近くで見ると、国義さんの角は翠かかった水晶のように見えます。光を受けてキラキラと輝いていました。
 「こうしてそばで見ると、やっぱり綺麗な角だね。触ってもいいかな?」
 少し間がありましたが、国義さんは首を少しうつむけて、触りやすいように角を私の方へと出してくれました。角に触れると、やはり水晶のように硬くてキラキラとしています。でもどこか温かくて、国義さんの体温を感じるようにも思いました。
 「そっか、額の傷は角の跡だったんだね。こんな綺麗な角の事、隠していたなんてズルいよ」
 国義さんの肩が僅かに震えている気がしました。そのまま頑張って手を下に動かし、指先で頬に触れます。国義さんの頬は、いつもと何も変わりません。私の体温より少しだけ冷たくて、少々骨ばった頬です。
「すごいね、国義さんは。どうしてこんなこと黙ってたの?この姿もこんなに格好良いのに。お話が出来ないのは寂しいけれど、やっぱり私には国義さんが世界で一番素敵だよ、大好きだよ」
 角を私に向けるためにうつむいたままで、国義さんは決して顔を見せてはくれません。ですが、急に私の体を胸へ抱き寄せました。謎の突起に邪魔をされている為にさほど密着していませんが、いつものように愛おしそうに抱きしめてくれています。少し顔を上げると、国義さんは泣いていました。普段からは想像もつかない程、表情を崩して。
 私がこんな事で国義さんを嫌いになったりしないのに……。国義さんは、こんなにも素敵な人なのに。


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