笑顔の理由

 コートの裾が、円を描いて宙を舞う。祐の前髪が、一緒に円を描いて舞う。まるでシンクロしているかのように、祐が楽しそうに周りを見渡す度に、振り返る度に、祐の服が、髪が、ヒラヒラと揺れている。
「国義さん、国義さん! 雪、雪だよ!」
 祐が雲を見上げ、ミトンの両手を空に差し出す。門倉も真似をして天を仰ぎ見れば、確かに今にも降り止みそうなささやかさではあるが、ほんの僅かに雪が舞い降りている。だが、この勢いでは、ホワイトクリスマスなど夢のまた夢だろう。
「祐は、雪が好きなのか?」
 ほんの僅かに、門倉の口元が柔らかく曲げられる。サングラスに隠された瞳の表情はうかがい知れないが、無邪気に笑う祐に視線が向けられている事は明らかだ。
「んー? 別に。でも雪って天海市じゃあまり見ないし、特別って感じがするでしょ?」
 門倉は仕事の都合で、再開発計画で天海市に来た。元来天海市の人間ではないし、再開発計画が終われば天海市を去る人間だ。だから、さほど天海市の歴史や気候に興味はない。海沿いだから配布するパソコンは潮風に強い外装が良いかもしれない、という話が多少あった事程度なら思い当たる程度だ。
「なら、普段見ないような珍しいものが好きなのか?」
 門倉の声色が、より柔らかくなる。好みを訪ねるその口調は、まるで幼い子供に話しかける親のようだ。
「うーん、別に珍しければなんでも好きって訳じゃないけれど。でも、そうだなぁ……私は、天海市の景色って見慣れているから。そんな景色が見慣れない、珍しい景色になるのは、好きかな」
 話をしている間に、ただでさえ注視しないと気付けないような勢いだった降雪は、ほとんどなくなってしまっていた。
「国義さんは、雪が珍しくないの?」
「いや、あまり見たことはないな」
「珍しいものに興味はないの?」
「別に興味はないな」
「じゃあ、なんでそんなに嬉しそうなの?」
 花が咲くように、祐が笑う。門倉が思わず、自らの頬を指で撫でて、確かめる。門倉の頬は緩みきっており、口角はあがりきっていた。笑顔を浮かべている事は、明らかだ。
「ああ、気付かなかったな。いつからこんなに笑っていたんだろうな」
「私と話始めた頃からだよ。なんで、そんなに幸せそうに笑ってるのか、不思議になるくらい」
 それは、祐が幸せそうだからだよ。そう門倉が話すと、祐は破顔し、コロコロと声を出して笑いだした。
「なら、私がもっと、たくさん幸せにならないとね。そうしたら、国義さんはもっと笑顔になってくれるんでしょ?」


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