HGSSジョウト組

夢がない。どこに消えたのか。それとも自分が捨ててしまったのだろうか。僕はどこにでもいる、そんな内の一人だった。数えるだけ無駄な採択は何通りもあって、それのどれかひとつを選んだとしても行き着く先は決まっていた。馬鹿馬鹿しいと、声をあげたいと思った。
数奇な運命だと表現してみれば表題でも飾れたのだろうか。果たして、僕の人生は物語にできるほど面白いものだったのかというと、自信はない。だけど徹底的に普通じゃないと言える、異質な点はいくつかあった。それだけが唯一面白味があった。それ以外は、糞食らえだ。

「まだ、終わらせたくないんだ」
「逃げてるだけじゃないのか」
「ごめん、またちょっと、旅に出ようと思うんだ」
「無駄な押し問答、これで何回目?」

二人の冷静で冷徹な声が耳に痛い。僕は無意識にボールを掴んだ。空中に放り投げれば愛しのポケモンが姿を見せる。僕はその伝説を体現する存在に縋った。
これは僕だけのものだと言えるだろうか。僕が手に入れたものだと言えるだろうか。

答えは、否。
そう答える声が脳内に響く。なぞらえただけだろう、今すぐにでも壊れるはず。はじめから仮初めだらけの物語に意味など見出していないはずだったのに。

「ヒビキくん?大丈夫?」
『ああ、なんて可哀想な、』

ブレて重なる澄んだ声。求めてやまなかったのは、僕じゃない。僕じゃないから、やめてくれ!
足元にあった小石を蹴り上げる。思いの外、よく飛んだ。ころころと数メートル転がった後また黙り込む。ちっぽけな行動だな、と僕でも思った。僕は視線を逸らして、鳴り響くすずのねに蓋をする。なんてったって臆病者な彼らだ。いつだって利己的な最善策を選択するしかない。そのほかに道はあっても選びとれないようになっている。
最低な温度差が、コトネとシルバーの間に生まれ始めていた。どうしてこうも認識が違うのか、それとも僕が過剰なだけだったろうか。息を呑む。旅の初めはもっと、僕も2人も単純な子供だったはずなんだ。どこから狂った?どこからおかしくなったのか?

コトネの瞳に純粋さは見る影もない。可哀想なコトネ。可哀想なのは僕だけじゃないことに安堵感を覚える。君は誰よりも真っ先に大人になってしまったね、と心の内でほっそりとひっそりと唱える。女の子という称号はきっと死んでも消えないんだ。今や君は誰よりも、大人でさえ怯えるほどの見据える瞳を持っている。それはさながら、水晶の如き聡明さ。虹彩に滲む水色は、残念なことに君らしい色じゃない。
シルバー、君の名前は本当にそれでよかったんだろうか。何にも知らないくせに、一番僕とコトネが知りたいことを知っている口ぶりには時に腹が立ったし、救われた時もあった。君だけは変わらない。不変。どこにも行けずに残されるだけの、やっぱり可哀想な人。今だから言えるけど、君は本当に早死にしそうな人だと思ったよ。今でも死にそうだけど、最初より幾分マシとは言える。ネジはぶっ飛んでいるけど、実はそうでもなく真面目だった。例え一人になっても、これからは強く生きていけるだろう。

「ヒビキ、シルバー、コトネ。違うんだ。違うんだ、僕は、夢を終わらせたくないだけなんだ。誰にでもあるような夢。楽しかった時間はまだ、続いているのに」
「あなたの中で?」
「俺はもう、中途半端でいられない。夢もいつか終わる」


耐え難い切なさだった。僕は伝説に飛び乗った。僕を認めてくれた存在の鳳凰。承認欲求が強かったわけじゃない。純粋にそう称すれば嬉しいことに気がついただけの話だ。
鳳凰に埋もれて瞳を閉じる。そうしたら世界の喧騒は引いて、2人の声も聞こえなくなった。

ここは何処だったか。茜色の空ばかりが広がっている。心地よい郷愁に包まれながら僕は眠りにつく。

「ああ、なんかもうどーでもいいや」

主人公になるにはあまりにお粗末な人間だったんだ。

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