悪い予感を感じつつ目を開く。いつものことだ。始まり方が『助けてください』が有名な某小説と似ているのはさておき、カーテンの隙間からの眩しさに今一度瞑って、今度は横を向いて開くと、案の定、目に入る蜂蜜色。

「あの…、隊長?」

毎朝毎朝懲りもせず人の寝床に這入って…じゃなくて、入ってきては人の布団というプライベート空間に立ち入ってくる。お前は夢じゃなくて時間を食うバクか、とでもいいたい。ほんと性質と書いてたちが悪い。声を掛けても朝食に間に合うぎりぎりまで起きないし、昨日遣り残した仕事があるから早く起きたいってのに圧し掛かってきて起き上がれないし、性格を補うみたいに無駄に顔だけはいいし。多分私じゃなかったら気絶しちゃうんだろうな、と思ったら平気な自分を少し疑う。世の中不公平すぎませんか、ねえ。…ってかこれ女中さんに見られたらどうするんだ、白目剥いて倒れる人続出だ、ってか私が生きて帰れるかわからない。或る意味現場より恐ろしい。女って怖い、あ、私もか。
沖田隊長、今日は何時まで起きないつもりだろうか、と、時計を見遣ると5時57分。もうボチボチ用意し始めないと、午前の見回りの前に仕事を終わらせられない。

「隊長、」

寝ている、というか熟睡している沖田さんの耳には届かないだろうけど、もしも話してる途中で起きてくれたらいいと言葉を続ける。

「あの、寝るんだったら寝てて構いませんから」

ただ少しだけ、避けて下さいませんか。沖田さんも日頃の激務(?)で疲れているだろうから、遠慮がちに。上体を上げようと腕に力を入れたら、不意に肩の辺りへの圧が高まったような気がした。これじゃあ、起き上がれない。びっくりしたのとむっとしたので沖田さんを睨んで、気が抜けた。沖田さんの脱力するほど穏やかな寝顔。

「…まあ、いっか」

いつだったか、沖田さんに言われた言葉を思い出した。それと同時に、その時見せた穏やかな表情も。『お前はいっつも働き過ぎなんでィ』。寝顔にそう書かれているような気がした。



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