そんな風に言わないで下さい、そう確かに言ったのは、蚊の泣くような消え入りそうな声だった。それは弱いからこそ、今では強い意思を表すものであって、だからこそ、もう救いようはないのかもしれないと気付かされた。もう何日、こいつは眠っていないのだろうか。
ねぇ土方さん、あの人は、悪くないんです、本当です、信じてください。目の前で譫言のように呟き続ける女に「わかった、わかったからもう、何も言うな」、そう制止をかけると虚ろな瞳をこちらに向けて、本当ですか、ありがとうございます、と安堵し微笑み、瞼を下ろした。見ていられないほどに痛々しいさきの微笑みが思い出される度に胸が焼かれるようだった。こいつが寝息を立てて眠る姿は久しぶりに見た。勤務中によく総悟と仕事をサボって惰眠を貪っていた頃の溌剌さは消え失せようとしているが、それでもこいつに変わりはないんだと、気付いたことでまたあの男が憎いと思われた。先刻こいつにふと尋ねてしまったことを胸の中で問う。なあ、なんであんな男愛したんだよ、と。
あの男はお前を騙した挙げ句、殺そうとまでしたんだ。今大量無差別殺人事件の犯人として、死刑に処される頃だ。聴取でお前のこと、『あの女は利用しただけだ。いやあ、俺に尽くしてくれて馬鹿な女だったが、役には立ったな、ははっ』そう言って嘲笑った。最低の男、いや、人間なんだよ。それでもお前は、まだ愛して、会いたいと言って泣き、信じると言って食事を止め、待つと言って睡眠もとらなくなった。それでお前は、
俺にはこいつがあの男と出会った所以も、今何を夢見て眠っているのかも、何もわからない。どうしたらこいつを守れる?居もしねぇと信じた神とやらに、初めて祈ったのは、確かにこの時だ。



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