いつもの調子でまためんどうくさいことを言い始めると思ったら、案の定そいつの口からはめんどうくさい提案が飛び出した。しかも今までで一番めんどうくさい類の。


「ねぇ、一緒に失踪しようよ」


しかも真剣だから質が悪い。








第一話








「しっそうしたいなら勝手に一人で走ってきやがれ」
「ちょ、そっちじゃない!」



私と総悟の関係は曖昧で、それでいてさっぱりしていた。友達とも違うけど恋人とも違って、だからって友達以上恋人未満って訳でもなくて。多分まだ、ふたりとも高校時代の延長線上にいるんだと思う。だから、曖昧なままであやふやでもあるくせに、体の関係がないから妙に青くさかった。だからって、互いに(まだ学生ではあるけれど)成人しているわけだし、そこまでガキって訳でもなかった。この関係は温くて、気持ちいいし、惜しい気もする。だけれど、そろそろ重い腰を上げなければいけない。だって、私には、もう。



「旅に出ようって言ってんの、家族とか周りの人誰にも知らせないで」
「なんでそんなこといきなり言い出すんでさァ。めんどくせえ。っつか講義あるし」
「いきなりなんて今に始まったことじゃないでしょ?それに講義なんてサボっちゃえ、高校ん時みたいに」
「あんただってあるだろィ」
「何が?いきなり言われて困ったこと?」
「違う、講義」
「あぁ、確かにね」



私と総悟の関係が変わらないように周りが変わらないということはない。高校から四年制大学へ進み、環境は変わった。総悟は高校時代よりも子供っぽくなくなったし、そりゃあ悪戯はするしなんでか同じ大学の土方くんにも色々仕掛けているみたいだけど、根幹の部分の?考え方もしっかりしてきていて、講義とかアルバイトとかをあんまりサボらなくなった。それは、大学へ進んだというよりも、唯一の肉親のミツバさんを亡くしたからかもしれないけれど。一方の私はといえば、なんてことはない。両親どころか祖父母まで至って健康。ぴんぴんしている。だからって何も変わらないわけじゃなかった。最近は総悟の家に押しかける以外ではあまり外に出なくなった。



「あぁあ、お腹減ったー。そうごー何か食べたい」
「うちの冷蔵庫の食材じゃたまごかけご飯くらいしか満足につくれませんぜ」
「からだ壊すよ」



結局、その日は二人でたまごかけご飯を食べることにした。買い物に行くのはめんどくさいという二人の合意のもと。







◇◆◇







それから一ヶ月後。やっぱり失踪とか旅に出るとかなんてことはしないで、家でごろごろしていた。多分あっちは忘れてるだろう。
しかし、私は何事もないように過したけれど、頭の隅っこでは『あそこにも行ってみたいなあ』とか『バイトで貯めたお金があるっていっても、宿泊費とかどうしよう、お金かかりそう』とか『宿泊費はいざとなったら相部屋で浮かせても別にいいかあ』とか、どっかに旅に出ることばかり考えていた。もちろん、総悟と。考えていれば自然に一緒にと思ってしまうけれど、その実、総悟に対してどういう感情を持ち合わせているのか、未だにはっきりとしていなかった。でも、それは自然なことのような気もした。だって、人が見ているものは同じでも同じような感想を呟いてもその感情が同じなんてことはわからない。もしかしたら本当に同じなのかもしれないけれど、確かめる術がない以上、これが果たして一般のどの感情に当て嵌まるかなんて、わからない。わかりっこない。
そういって逃げているのかもしれない。逃げるのが得意なのか、逃げるしか能がないのか、私の思考は逃げ道ばかり探している。あぁ、だから、旅に出たいなんて最高の逃げ道にたどり着いたのか、人まで巻き込んで。自己嫌悪に陥ったところで、だめだ、もう一眠りしよう、と思考を放棄した。
ほら、やっぱり逃げてる。


二度寝から目が覚めると、ぼんやりした視界の傍らでなにやら小さく点滅していた。どうやらそれが携帯だとわかり、開くとメールが一通。私のお友達たちは揃いも揃ってデートやらカラオケやららしいので、どうせどこそこからきたメルマガだろうと開くと、絵文字もなんもない、もちろんメルマガでもない文章。あて先は、よく見ると、総悟から。『11時までに仕度しときやがれ』。なんて横暴な。なるほど、確かにいきなり言われると困るってこういうことだ。あれ、今、何時?時計を見るとちょうど11時の五分前を指したところだった。寝起きでただでさえ混乱しているって言うのに、更に焦ってしまっては五分という短い時間での可能性を探すほど器用でもなかった。と、とりあえず、ど、どうする?混乱状況にある頭の中の会議室では、何故か洗顔という結論に至ったらしく、私は洗面所へと向かった。あと、三分。の、はずなのに、鍵が開く音。え、うそ。



「まだパジャマかよ」



随分な荷物を抱えた総悟がわらう。







11.0302/炭酸がにぶい

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -