昼休み、例の如く私は屋上にいた。この前と少し違うのは自分の弁当を食べ終わってフェンスにへばり付いていたこと。屋上からは校舎の外側は大体見下ろすことができる。もちろんグラウンドも。野球部は毎日昼休みに昼練をしているのだ、すごい。野球部、そう、例の春川くん。私はグラウンドというより春川くんを凝視していた。…なんかこの表現怖いな。私はグラウンドというより春川くんに釘付けだった。(見えないけど)ほとばし(ってい)る(だろう)汗、ニッコリと笑っている(だろう)端正な顔、インナーから浮き出た体育会系な体つき、なんといっても爽やかである。本当に苗字の通り春が似合う。あ、でも夏も似合うかな、でもでも冬にマフラーぐるぐる巻きで(以下略)。



「(…かっこいーい、もうなんかボールになりたい。いや、でもやっぱりくっついてられるグローブかな?ううん、やっぱり受け取られるボールも捨てがた)あ、春川くんナイスプレー!…っあだ!」
「ぶつぶつ何言ってやがんでィ」
「何すんですか!折角の乙女タイムを邪魔しないでくださいよ!」
「方向性間違ってんだよお前の場合!なんでポジションが物限定?先輩とかマネージャーとか他にあんだろ!」
「だってなんか彼女とかになりたい訳じゃないし…」
「そこまで言ってねぇよ!」



沖田先輩が投げた私の弁当箱が頭にクリーンヒットしたことにより夢の国から強制帰還。通常運転に戻り冷たい床に座り込む。『乙女』というワードに沖田先輩が眉を寄せたのはいただけない。全く、先輩方はわかってないなあ。土方先輩も土方先輩だ。曖昧で微妙でぐらぐら不安定な乙女心を理解するべきだわ、ぷんぷん。だからモテるのに彼女出来ないんだよ先輩方。あ、作ってないだけでしたか、すいません。



「まあそれはいいとして。今日ですよね、新入部員来るのって」
「あ?…あぁ、そういえばそうだな」
「放課後忙しくなりますね、めんどくさ」
「おい」



我が剣道部はなんだかんだ言いつつ大会成績もいいし、剣道経験者は多く入部してくる。それだけではなく、我が剣道部、顔がいい部員が多い。この二人筆頭に。例えどんなに性格や嗜好に難有りだとしても傍からは見えない。そう、そんな理由で入部希望者は多い。私の時もそうだった。続くかどうかは置いといて。



「…確かに楽しみですねィ」
「……沖田先輩の場合純粋な楽しみでわくわくしてる気がしない」



大方新しいパシリ探しだろう。私と同い年の山崎は餌食に、というか被害者になった。バド部に入ろうと思ったらいつの間にか剣道部になっていたらしい、なんというか救いようがないというか助けようがない。可哀相過ぎて同情も出来ない。
まあ、私も公式パシリみたいなもんだけどさ。そこでふと思い付いた。入部希望者ってことはつまり、マネージャーにも希望者って出るはずだよね?マネージャー希望者なんて去年はすごい人数いたし。と、言うことは?ちゃらんぽらんが売りの私にも後輩ができる訳で?つまり、



「市野先輩、か…」



そうですね、ついに私も先輩デビューな訳ですね!後輩はかわいい子がいいなあ、できれば前○敦子ちゃんみたいな!それでしっかり仕事してくれて私の仕事がないくらいだと尚良し。でも性格いい子なら全然大丈夫。寧ろ来い。バッチ来い。
…まあ、でも期待出来ないだろうな。マネージャーの忙しさはきつくて辞めちゃう人続出するくらいだしね。胴着臭いし。合宿も強制参加だし。公式パシリでこき使われるし。胴着臭いし。もう私以外残ってないから先輩は私だけだし。入っていいことなんかないのに。あぁあ、憂鬱な気分になってきた。なんかもういますぐ布団に潜りたい。
…そんな時は、



「きゃー春川くんかっこいっいだあ!」
「黙りやがれ」



本日はこんなことを計三回繰り返すのでした。







2011.0413
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