春の屋上の冷たい地に寝転がりながら、ふと思った。傍から見たらこれは所謂、おいしい、と呼ばれる環境なんじゃないだろうか。




「おい、市野」
「………ぐー」
「ちっ…。おやすみ3秒か」
「土方さん、こいつ寝たふりしてますぜ。アホ面してやせん」
「誰の寝顔がアホ面ですか」
「ほら」




状況が状況とは言え、イケメンと名高い先輩二人に囲まれて。でも残念ながら私の好みはクラスの野球部の春川くんである。爽やかな彼は私のアイドルだ。しかし恋愛感情は持ち合わせていない。なんかそういう感じじゃない。とまあ、話は逸れたが、所謂イケメン二人は、特に瞳孔がん開きの方は半ギレ状態である。何故なら二人が風紀委員会でいない間に食べかけの弁当アンド購買のパンを頂戴したからだ。早食いと大食いには自信のあるのが私、市野さなです。でもテレビの大食いとかは好きじゃない。なんかもったいない、ちゃんと味わえよホットドック。



「おい、弁当どこやった。正確には弁当の中身」
「土方さんのはいいとして俺のもなんていただけねぇや。吐け、色んな意味で」
「…………ぐがごぉ」
「寝た振りしてんじゃねェェェ!つーかそのいびきはねぇだろ!おっさんかよ!」
「……ちっ。ああもうなんすか弁当一つでうるさいなあ!食いました、食いましたよ畜生!」
「開き直った、この子開き直ったよ」
「『嘘はつかない』が今年の目標なんで」
「さっき思っ切り寝たふりした奴がよく言えますねィ」
「あれは、ほら、カムフラージュです」
「たいして変わんねぇだろうが!」
「変わります、多分。大体迂闊に昼飯開きっぱなしで置いてく方が悪いじゃないすか、食べてくださいって言ってるようなもんです」
「まさか食いかけ食うとは思わねぇよ」



ああ言えばこう言う、こう言えばそう言う人たちなので暫くは言い争いになるだろうと思った矢先、予鈴がなる。溜息をついて土方先輩は教室に戻っていった。空っぽの弁当とともに。



「あれ、沖田先輩まさかサボりですか?」
「次の時間はサボりたい気分なんで。どうせ現国は自習だしねィ」
「あぁなるほど」



そういえば、次の時間ってなんだっけ。…あ、体育じゃん。ってかちゃんとジャージ入った袋持って来てんじゃん。気付けよ自分。過ぎたことはまあいいや、えぇっと予鈴が鳴ったってことは本鈴まであと5分。ダッシュすれば屋上から体育館までは3、4分…あれ着替える時間ない。少し遅れてくか…いやでも遅れたらあの先生腕立てさせるんだよなあ。いっそ保健室、と思ったけどバスケなら出たいし…仕方ない、着替えはある訳だし。



「次体育で時間ないんでここで着替えていいですか」
「あぁ、構いやせん」



よし、と脳内でガッツポーズをしながら急いで袋からジャージを取り出す。ブラウスに手をかけてふと気付く。あれ、この人頷いといて一向に出ていく気配ない。



「…先輩まさか出てかない気ですか?」
「あり、間接キスは気にしない癖にそういうのは気にするんで?」
「それとこれとは別です。…まあ、いいですけど、一応こっち向かないでくださいね」



返事はないが、時間もないので背中を向き、ブラウスを脱ぎにかかる。と、後ろから舌打ちが聞こえた。



「キャミかよ」
「先輩だけど、見てんじゃねぇぇええ!」









2011.0413
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