「ねぇ、じゃあさ。私が結婚したらどうする」 いつもどちらかと言えば静かで、部屋に来ても何も話しかけてこないはずの彼女を振り返る。来るなり質問ばかりしてくるのに、内容は言ってしまえば薄っぺらい。まるで静かさを嫌っているかのようだった。その前まで大方たいして意味のないものだろうと投げやりに返事をしていたからか、やけに現実味を帯びたような問い掛けには面食らった。しかし、同時に振り返って映った彼女の表情で確信を得た。これが彼女の今日尋ねて来た理由だ。 「不倫はめんどくさいからパス、かな。仕事に関わっても困るし」 生憎、望んでいるような回答は用意していない。そう突き放す意味を込めたはずなのに、さすが彼女というか、一般的に予想される反応とは違う意味の笑みを称えて、呟いた。しかも、口調は先程までの調子に戻って。 「シンプルな銀の指輪って、どう処分したらいいのかしら」 たった今、左手の薬指から抜き取った例の指輪を翳して、感慨も何もないように。彼女は時々、子供のように振る舞う時がある。残酷なことをしてその行動が何に対してどう作用するかを息を潜めて観察をして、結果がどうであれそのままで受け入れて、それを楽しむ。今回のように。 口数も減りいつも通りの、20代の状態に戻りつつある彼女にいい質屋でも紹介しようか、なんてパソコンに向かいながら冗談半分で口にしたら、売れる訳ないでしょう、といやに真面目な声がした。 「だってこれ、彼の手作りだし」 俺にはどうも彼とやらに彼女が仲よさ気に寄り添う様が想像できない。 (20110331:指輪は不燃ゴミかそれとも質屋か) title by {リラと満月} 意味深なお話を書いてみたくて。寧ろ意味不ですな、いつも通りですな← |