『チョコレートが欲しい人は放課後までにうちまで来てね』



そんなメールを一括送信。そのままアドレス帳からあいつにメールを。みんなとは違う文面、すぐに返ってくるメール、少しにやける。



『今日の夜、家行ってもいい?』
『放課後から上がっててもいい』



背後から聞こえる、轍でも残りそうな足音に振り返る。自然と口元が綻ぶ。なんだか今日は、口元が緩むなあ、なんて。
「名前ー!チョコ寄越すアルーー!」
予想通りの一番乗りは神楽ちゃん。はい、と言って手渡した少し大きい袋には昨日の晩に詰め込んだチョコチップクッキーが沢山。神楽ちゃんには特別、4割増し(当社比)。
他にも、お妙ちゃんには少しかわいいラッピングにしていたり、土方くんのには袋にマヨネーズも詰め込まれていたり…相手の顔を思い浮かべながら、相手の好みに合わせて包装をした。だからきれいにすました袋の中で似ているものはない。個性的な袋たちの入った紙袋の中は3Zの縮図みたい。


「いいかー席つけー」とけだるさを含んだ銀八の声でいつもより浮足立ったみんなが席に着く。銀八が紙に書いてある連絡事項を読み上げる。それもまた面倒臭そうに。軽く聞き流すつもりだったのに、今日に限っての保健委員会についての連絡で叶わない。だって私、保健委員だ。



「えー今日の放課後保健委員は第三会議室で委員会あるらしいからちゃんと行くようにしろよ」







放課後、更に保健委員会も終わり。急ぎ足で階段を一段飛ばし。そこまで急がなくてもいいか、と速度変更。慣性で紙袋ががさりと音を立てる。あげた分貰って、紙袋の中では違う袋たちが犇めき合っている。そんな理由でほくほく顔の私が帰る道はいつもと変わらないはずなのに、着く場所が違うだけで少し、なんていうか、むずがゆい。靴を履き変えて、立ち上がろうとしたら背中から影。ふと見上げると、



「あれ、総悟だ」
「おう」
「部活は?」
「今日はトレーニングなんで終わるの早ぇんでさァ」



なるほど、どうりでサボってないにしては早いと思った。正直な感想は心に収めて、土方くんの下駄箱を横目でちらり。確かに今日はこれで部活が終わりらしい。
自然と繋がれた手に引かれて学校を出る。いつからだっただろう、恋人繋ぎになったのは。



「はい」
「なんでィこりゃァ」
「いや、何って。わかるでしょ?」
「てんで予想もつきやせん」
「やだなあ、チョコレートだよ」
「…要りやせん」
「…もしかして友チョコ配ったの怒ってる?」
「別に」



にしてもいつ土方のヤローなんかと友達になったんですかねィ。恨まし気に吐き捨てられた言葉を飲み込むと、ぴりぴりしてる総悟とは反対に私はにやにやした。少し痛い手を無理矢理握り返したら怪訝そうな顔の総悟と目が合う。拗ねてる。「何笑ってんでさァ」
「べっつに。ちなみに総悟のために作ったのはガトーショコラで、みんなにあげたのはチョコチップクッキーです」
「…なら貰いまさァ」



総悟に似合わない、反対の手から奪われたピンクのラッピング。実は得意じゃないお菓子作りでガトーショコラは3回も焼き直したなんて秘密の話を詰め込んでいる。
繋いだ手に寄り掛かるみたいに、ゆっくりとした歩調で進む。まだにやついた頬っぺた。一日中緩みっぱなしの口元。じゃあ今日は一日中幸せかもしれない。斜陽、幸せ色を道端で見付けました。






(20110213:クリーム色と淡いピンクと少しのみどり)




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