ピリリ、と機械音がして、泥のようにもぞもぞと身体を動かす。左脇から取り出した体温計に衝撃が走る。38.7度。今まで割と健康体で生きてきたから、こんな体温初めてだ。妙な寒気と頭痛で参った頭では予想を立てるのすら億劫だったけど、まさかここまで高いなんて…。それと今回でひとつ学習したのは、熱は自覚するとより自分を辛くするということ。いよいよ咳まで襲ってきた。



「門田さ、ケホッ、風邪、引きました」
『大丈夫、じゃないな。薬は飲んだか?』
「すいませ…ゴホッ。薬、家になくて…暫く寝てます」
『ないってお前それじゃ直らねぇだろ…わかった、じゃあ今からそっち行く』





「って、ことで来たんすけど…うわあ辛そうっすね」



あらかじめ開けておいた玄関から入ってきたのは、ゆまっちだった。なんで、よりによってゆまっち?



「……門田さ、は?」
「急な仕事が入ったみたいっす」
「……そっか」
「そんな顔されても、うーん、困ったっすねぇ…じゃあ、すぐ帰りますから我慢してください」



困った顔したゆまっちを見て、急に悲しくなった。ゆまっちが嫌いなんじゃない。それは絶対ないんだけど、門田さんじゃなくてびっくりしてしまった。わざわざゆまっちを呼ばなくても…多分、こっちが顔に出てしまったんだと思う。化粧もしてなくて顔もボロボロで、髪もボサボサでうなされてる姿見られたくなかった。
でも口にするのは恥ずかしい気がして、淡々と過ぎる時間を過ごした。



「じゃあそろそろ帰るっす。晩もちゃんと薬飲んでくださいね、あ、あと戸締まりも」
「…待っ、て、」
「? はい、なんすか」
「…門田さ、がよかった訳でも、ゆまっちが嫌だった訳でもな、よ」



だからすぐ帰ったりしないでよ。忙しいならちょっとでいいから、側に居てよ。掠れ声でまくし立てたのは、決して人恋しさから口をついた言葉じゃなくて。それもない訳じゃないけど、ただ純粋に傍に居てほしかった。それを伝えたかった。なんて、今更恥ずかしい。これじゃあ駄々っ子だ。
珍しくデレたとか何とか騒がれるのかなあと思ってたら、聞こえたのはたったの一言だった。



「…やっぱりあささん、かわいいっすね」



じゃあ居られる限り傍に居るっす、と掛け直された布団に緩んだ口元を隠して、目をつむる。その前に、と食器を片付けに向かった足音に耳を澄まして。ボロボロの顔なんてどうでもよくなっていた。



後日、ゆまっちが自分で行くと言って、風邪がうつされるのも構わず来てくれたということを知ることになる。





ゆるりと訪れるまどろみに身を委ねて


(20110203:不謹慎なのはお互いさま)



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