あの子の髪が短くなったことの理由くらい、クラスメイトってだけの私にもすぐにわかった。誰か知らない発信源の噂のおかげだ。それにしても、随分と古典的な考えの子だ。呆れたのは、それだけでも、その子に対してだけでもない。



「あさー、お弁当食べよ?」
「あ、ごめん!私ちょっと用事あるんだ。みんなで食べてて?」
「もしかして彼氏?それとも呼び出し?」
「まさか、有り得ないよ。したらねー」



屋上のドアが簡単に開くことは、意外とみんな、知らなかったりする。私がクラスも出身中学も違う奴と昼食を食べたりしていることも。



「また、ふったんでしょう」



そんな屋上の常連に向かって声をかける。声は返ってこなかった。だけど、確かな存在感。給水塔横、いつものアイマスク。寝たふりなんてばれてるよ。目的地に向かって梯子を登る、その間も口は休めず。



「てっきり付き合うかと思ってたのに」
「……」
「上手な振り方したもんだねぇ、」
「……」
「あの子吹っ切れたみたいに爽やかな表情だったよ」
「…あんたに何がわかんでさァ」
「ほら起きてる、よっ…と」



そいつの横に着地して、顔を覗きこむ。やっぱり。大体誰かを振った後の沖田は機嫌が悪い。その原理はよくわからないけど、私が毎度のようにこうやって嫌味を言うのも一因ではあると思う。ちなみに、こいつがあの子と付き合うなんて考えちゃいない。そう、嘘っぱち。更に言うとあの子の目は昼休みの今でも腫れがとれていない。



「でも今回はちょーっと付き合う方向も考えたんじゃないの?かわいいとか言ってなかったっけ」
「言った覚えありやせん」
「あれ?じゃあ山崎だったか…」



お昼ご飯のメロンパンの封を開けて、頬張る。そうしながら考えたんだけど、多分こういうことなんだと思う。沖田総悟という人物の性格を勘違いしている子は多い。私みたいに猫被ってるのとは違う意味で、どこと無く近寄りがたいという理由で、性格を知られにくい。加えて、沖田は剣道部のエースらしい。他の部活のことはわからないことが大半、それにうちの学年に3Z以外の女子剣道部員はいない。とりあえず部活を一生懸命にやっているのかしら、なんて考える。それで告白する。沖田は意外とそれに幻滅するんじゃなかろうか。
でもまあ性格ドSだし、不真面目だし、というか3Zってだけで問題児なんてわかるだろうに。恋する乙女は盲目だなんてよく言ったもんだ。でもまあ、性格知ったらまず告らないだろうなあ、よっぽどな性癖をお持ちじゃない限り。



「ねぇねぇ、次はちょっとだけでも付き合ってみたら?なんか変わるかも」
「嫌でさァ。どうせあんたが見て面白がるだけだろィ」
「ばれたか…あ、ちょ、食うなメロンパン!」



結局、人のメロンパンを半分平らげた沖田の機嫌は直ったらしい。二つの焼きそばパンは取られないように、教室に戻って食べようかと腰を上げた。



「うわっ」



急に揺れた視界に振り向くと、綺麗な顔は予想外に近かった。思っても見なかった襲撃に心臓も肺も、身体全てが硬直する。急激に暑くなった気がした、特に顔と沖田の腕が回ってるお腹の辺りが。



「あんたが何考えてるか知りやせんけど、好きでもない奴とは付き合いやしません」
「……」



聞いたふりしたかった。先刻のこいつの寝たふりみたいに。でも、声すら近い距離にいた、いや、寧ろ距離なんてない。



「いつまでも傍観者でいられると思ったら大間違いでさァ」



言っておくけど、私はこれといった性癖は持ち合わせてない。だからいつまでも傍観者で居たいんだよ。これだから、女心がわからない男は嫌だってんだ。





(20110305:知ったかぶりはどっち?)

ふと思いついた皮肉屋とドSの攻防。こんなに長くする予定はなかったのに…さすが、予定は予定なだけある。



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