午前の授業はぼんやりとしているうちに終わっていた。本当に、いつの間にか。決して今朝の早起きが原因な訳でも、授業にやる気がなかった訳でも、ない。


3年生の階まで登るのに、どれくらい勇気を振り絞っただろう。両手にひとつずつ持ったお弁当箱を、ぎゅっと握る。




「あ、」




或る教室を覗き込んで、目に入った銀色に胸が高鳴る。そこで躊躇いが生まれる。教室には当たり前だけど、他にも先輩方がいて、とてもじゃないけど声なんてかけられそうもない。
やっぱり、諦めよう。ここまで来れたけど。いまどきお弁当なんて、ね。先輩も用意して来てるだろうし。自分の教室へと踵を返した。その時。




「おーい、」




けだるげにふざけた調子で、私の名前が呼ばれる。はっとして、同時に萎んでいた心臓が騒ぎ出す。先輩の、声だ。




「俺今日さー、うっかり弁当忘れて来ちゃったんだわー」
「え…」




ぺったぺった、と先輩らしい足音で、近付いてきたその手がお弁当箱の入った巾着を片方、持っていった。その時微かに触れたところから熱が伝う。どきどきは加速する。




「これ、もらっていいんだよな?」




あとがき:久しぶりに青い感じの?書きました。終わりがこういう感じなのは仕様だと言い張りたい。



110429

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