あれから泣き腫らした顔を二時間近くかけてどうにか人前に出れるレベルに戻し保健室を出た。
夏未の言葉に甘えて何も持たずに学校を出たのはいいが家の鍵はカバンに入れたままだったので家に帰っても家に入ることはできなかった。なんて無駄足。財布もカバンに入れていたのでどこかに行く事も何かを食べる事もできず、家のドアの前に三時間くらい座っていたが色々と耐えられなくなったわたしは病院へと向かった。
幸いケータイは常に持ち歩いていたので夏未に病院にいると言う旨のメールを送っておいた。きっと放課後にわたしのカバンと共に病院に現れてくれることだろう。それまでにある程度心の整理を付けておかなくてはいけない。家の前で考えてもどうにも纏まらなかった。タイムリミットは夏未がおじさんの仕事の手伝いを終える五時。今の時刻は四時。もう、あまり時間はない。


「崇、お姉ちゃんが来たよー」


弟の病室のドアを開けると弟はゲームに興じていたらしく慌ててゲーム機を隠した。勉強しろとは言わないがせめてわたしがあげた本とか読んでてくれよ…。


「姉ちゃん!」
「今日はちゃんと勉強してたかなー?」
「…し、してたよ!」


どこか引き攣った顔でそう言った崇に苦笑が零れた。おいおい、わかりやすすぎだろ。


「まぁ、わたしも今日は学校サボっちゃったから何も言えないんだけどね」
「サボりはダメだよー」
「どの口が言うか」
「いてっ!」


今日勉強をやらなかったやつに言われたくない、と崇の頭を軽く小突いてから来客用のイスを取り出しベッドの近くに座る。崇は隠したゲームを更に隠そうとしていたけど、もうバレてるからね?


「ねぇ崇」
「なぁに?」
「みんなのこと好き?」


自分はかなりの馬鹿だと思う。崇にこんな事を聞いても意味がないってわかっているのに。自分の問題なんだから自分で解決しなきゃいけないのに昔みたいに人に頼ろうとしている。


「みんなって?」
「例えば…夏未とおじさんは好き?」
「好きだよ!」
「コージとジローは?」
「大好き!」
「…ついでにコーイチさんとソーイチさんは?」
「優しいから好き!」


その後も手当たり次第に崇とわたしの共通の知り合いの名前を挙げていくが、驚く事に崇は多少の差はあれどほぼ全員のことを好きだと言ってのけた。


「………もう一回聞くよ。崇はみんなのこと好き?」
「うん!みんな大好きだよ!」


笑顔でそう言った後に少し苦手な人もいるけど、と言って苦笑していたが正直でいいと思う。無知は罪だと言うが、何も知らない…覚えていない崇が羨ましかった。


「姉ちゃんは?」
「…え?」
「姉ちゃんはみんなのこと、好き?」
「……っ!」


息が詰まった。
別に崇は何かを思って言ったわけじゃない。ただ単に自分が聞かれた事をオウム返ししただけなのだ。それだけの事なのに自分が見透かされている気がした。


「ね、姉ちゃん?!どうしたの?どっか痛いの?」
「あー……やっぱり涙腺緩い」


涙が次から次へと頬を伝って落ちていく。朝にあれだけ泣いたのに涙はまだまだ枯れないらしい。どうも幼くなってから涙腺が緩い気がする。


「……好き」
「え?」
「わたしもみんなのこと、大好き…!」


難しく考える必要なんかなかったんだ。たとえキャラクターだろうと大好きならそれでいいじゃないか。ここに来たばかりの時にこの事実を知っていたら確実に自殺してただろうけど今は違う。今ではみんなわたしの大好きな人達なのだから態度を変える必要なんてないんだ。多少好きじゃない人もいるけど。





 



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