コツコツとローファーを鳴らしながらリノリウムの床を歩く。廊下にはわたし以外の足音も響いていた。
そりゃあ病院なんだしわたし以外に人が歩いていても何の問題もないのだが、普通とはちょっと事情が違う。


「………」
「…………」


まじで何がしたいんだ豪炎寺修也よ。ピッタリとわたしの左斜め後方をキープして歩いているのは先程別れたつもりでいた豪炎寺くんである。何故彼はわたしの後ろをついてきているのか。実はわたしに用があったのか、ただ単純に行く道が同じだけなのか。はたまたオープンなストーカーなのか。流石に最後のはないか。
角を曲がるとようやくわたしの目的地である自販機コーナーが見えてきた。やっとこの苦しみから解放されると思い自販機の前へと立った。しかしわたしはそこで重大なミスに気がついた。


「財布……!」


そう、財布はカバンに入っているのだ。もちろん都合良くポケットに小銭やお札が入っているわけもなく、わたしは自販機の前で暫くの間立ち往生してしまった。…笑われてもいいから崇の病室に戻ってお金を借りよう。そう思って後ろを向くとそこには片手を差し出した豪炎寺くんがいた。
某映画の傘を差し出すカンタ少年を思い出してしまった。これで『ん!』とか言えば完璧だ。

……って、そうじゃなくて!


「え……?」
「金、忘れたんだろ?」


どうしてこうなった。頭の中はその言葉でいっぱいだった。え?何?何なの?解せぬ。
豪炎寺くんの行動の意味を理解できずフリーズしてしまった。でもこれはフリーズしても仕方ないと思う。まじで解せぬ。


「…どうした?」


豪炎寺くんはいつまで経ってもお金を受け取らないわたしに不審そうな顔を向けてくるが、どうしたもこうしたもねぇよ!むしろお前がどうした!と言ってやりたい。すごく言いたい。ほぼ初対面だし怖いから言えないけど。


「別に、病室に戻ればあるし借りなくても……」
「……………」


やんわりとお断りしようとしたらギロリという効果音が相応しいくらい鋭い目で見られた。いやこれは睨まれたと言っても過言ではない。もう泣くしかないんじゃないだろうか。まじで泣きたい。


「……はぁ」
「…え?」


ため息をついた豪炎寺くんはオロオロしているわたしの横を通り過ぎると自販機へと硬貨を投入し、素早い手つきでコーヒーとジュースのボタンを押した。腰を曲げてその二つを取り出したかと思うと、それらをわたしの前に突き出して薄く笑った。


「コーヒーとジュース、どっちだ」


何この超展開。今のわたしには理解しかねます。





プリーズテルミー!(サッカーだけじゃなくて展開も超次元なの?)




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