勉強道具が入っている重たいカバンを持って友達二人と夜道を歩く。
「家に帰るのだるい」
「……学校出る前に言うならわかるけどさ…」
「もう家に着くっつーのに何言ってんだよ」
暗くても二人…彩と彼方が呆れているのがわかる。
しかも彼方のやつ溜め息ついたよこの野郎。
「たった数百メートルがだるく思えるくらい疲れてるんですー。二人は疲れてないの?」
「まぁ、オレも疲れてるっちゃあ疲れてるけど…」
「でしょ?」
「ああっ、なんか認めたらどっと疲れが…」
そう言いながらわたしにもたれかかってきた彼方の腹に肘鉄を一発お見舞いしてから彩に話しかける。鳩尾に入ったのか彼方が低い声で呻いたが無視した。
「彩は疲れてる?」
「いや、わたしはあんまり…」
「嘘だぁ!一番練習してたじゃん!」
「これでも部長だからね」
そう言って照れる彩はすごく可愛い。
普通の状態でも可愛いのに照れるっていうオプションがつくと更に可愛くなる。その可愛さを少しくらいわたしに分けてくれてもバチは当たらないと思う。マジで。
「ま!部長なのに琴玻にはいつも勝てないけどな!」
「そーなのよねぇ…」
「わたし運だけは強いからなぁ」
練習の時なんかは当たらない事の方が多いのに本番や勝負事になると必ずと言ってもいいほど当たるのだ。何このチート能力って自分でも思うくらい。
「これは部長交替かぁ?」
「…………」
「あ、れ…?彩ちゃーん…」
彼方は冗談で言ったつもりだろうけど彩は俯いたまま何も言わない。
そして彼方の視線がウザい。人に助けを求めるくらいなら言うなよ。
「…琴玻ー!」
「自分でなんとかしなさい」
「うっ…………ご、ごめん…冗談のつもりだったんだ」
「……………」
彼方が謝っても沈黙を貫いている彩を見ると肩が小刻みに震えていた。
「………彩、それくらいにしておいたら?」
「……へ?」
「っくくく、彼方ってば騙されちゃって…!」
急に腹を抱えて笑いだした彩に彼方は目を白黒させて驚いている。
何年も一緒にいるのにちっとも学習しない彼方に、純粋だなぁと感心するべきか馬鹿だと呆れるべきか。
「この中で一番命中率が低いあんたにそんな事言われてもこれっぽっちも傷つかないわよ!」
「…確かに」
「なっ、なんだと?!」
彩がわたしの手をとって走りだす。いきなりすぎて前につんのめったんだけど。
「このっ…!待ちやがれ!」
「待つわけないでしょ!」
「ねー!」
「くそぉっ!!」
走って追いかけてきた彼方から逃げるように走った。疲れてるだとかカバンが重いだとかそういうことを全部忘れて小さなこどもみたいに全力で走った。
つまらないながらも楽しい(こんな日常がいつまでも続くと思ってた)
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